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「君達の本当の目的は何なのですか?」

ロビーに場所を移して聞かれたのはそれだった。私たちはそんなに不可解な存在だろうか。

「いや、目的って言われてもなー」
「ねえ。私は単に資金稼ぎに来たんだよ」
「オレもアンタらに会わなかったらそれだけのつもりだったし。ゴンはヒソカってやつと戦うために武者修行に来てるんだ。それだけだよ」
「ノリで最上階目指そう! とか言ってたけど別にそこまで興味ないし」
「ああ、でもゴンは分んないけどな」
「確かに。まだ目指してるかもね」
「…」

次々に話す私達にウイングさんは黙ったままだ。

「あいつ、口ではヒソカと戦えればそれでいいとか言ってるけど昨日の試合のやり方…あれはスリルを楽しんでるみたいだったからな」
「命さえ落としかねなかったあの状況を、楽しんでいた…と?」
「強い人と戦うのが楽しいみたいだよ。少しバトルジャンキーの気があるね」
「だろうな。オレもそゆことない訳じゃないから分かるんだけどさ。オレなら時と場合と相手を選ぶけど、あいつは夢中になったら見境なさそうだしな」
「でも、見境なくなっても真剣にした約束を破るゴンじゃないから大丈夫だよ」
「…」
「もう、遅いよ」

何か考え込んでしまったウイングさんにキルアが妖しく笑った。

「もう知っちゃったんだから、オレ達。教えたこと後悔してやめるんなら、他の誰かに教わるか自分で覚えるかするだけ。責任感じることないよ。オレの兄貴もヒソカも念の使い手だったんだから、遅かれ早かれオレ達は念に辿り着くことになってた」
「…わかりました。途中で降りる気はありませんよ。むしろ伝えたいことが山ほどあります」
「ぜひ、よろしくお願いします」

にっこり笑いかけるとため息をつかれた。失礼な。

「ズシが宿で待ってます。君達も一緒に修業すると良いでしょう」
「お願いします。ちょっと相談もあるのですが」
「…オレはいいや」
「え?」
「抜け駆けみたいでやだからさ。ゴンが約束守れたら一緒に始めるよ」
「そっか…じゃあ私も」
「いや、はヒソカの事があるだろ? 待つのはオレだけでいいよ」
「分かった。ゴンにごめんねって言っておいて」
「ああ。じゃ、お先」

言って去っていくキルアはゴン思いの良い子だと思う。ウイングさんが慌ててその背中に声をかけた。

「キルア君! ゴン君に燃える方の「燃」の修行なら認めると言ってください! 「点」を毎日行うように! と」

手だけ振り返したキルアを見えなくなるまで見送ってから、ウイングさんと彼らの宿に向かった。

11

「ただいま、ズシ」
「お帰りなさい師範代! さんもいらっしゃいっす」
「お邪魔します」
「あれ? 他のお二人は?」
「今日は私だけなんだ」

宿に着いて早速修行、と向きかける話に待ったをかけると椅子をすすめられた。ヒソカと戦う約束があることを説明する。

「そうですか。それで一人だけ先に修業を…」
「はい。2か月後、と言ってしまったので。ハンター試験の時から目をつけられていたみたいで、逃げられるとも思いませんし」
「先程廊下の先にいた人ですよね? かなりの使い手に見えましたが」
「一応対抗手段はありますし、手を抜かれていたとはいえ一度は打ち合えました」
「対抗手段?」

不思議そうに聞き返してくるので実践してみることにする。

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ――破道の三十一、赤火砲」
「!」

掌の上で光るだけに威力は調整してある。さすがに宿の備品を壊すのはいけないだろう。でも、思ったより明るい。やはり精孔が開いて威力が増しているようだ。驚いた顔でこちらを見る二人に解説する。

「これは鬼道と言って護廷…家に伝わる秘術のようなものです。いくつも種類があって、今は威力を抑えていますが、そこの壁くらいなら余裕でぶち抜けます」
「す…凄いっす」
「なるほど…精孔を開く前からそういったことができたのですね?」
「はい」
「その呪文のようなものは毎回唱えるのですか?」
「いえ。詠唱破棄という技術があるので、余裕がある時か力量の足りない人だけ唱えます」
「そうですか…三十一という事は何種類もあるんでしょうね」
「破道と縛道で九十九種類ずつありますよ」
「それは…」

赤火砲を見つめながらしばらく呆けていたウイングさんはやれやれとばかりに頭を振ると聞いてきた。

「それで、そういったことができるさんは一体私に何を教わりたいのですか?」
「念についての基礎基本です。これまではそうと知らずに術だけ使ってきたので念についてはズシ君より知りません。ヒソカと戦う上でそれはまずいでしょう?」
「そうですね。では2か月後までに一通り基本が分かるように指導させてもらいます」
「ありがとうございます」
「じゃあ一緒に修業っすね!」

ズシが嬉しそうだったがその日はもう遅いので部屋を辞し、次の日から通うことになった。とりあえず報告にゴンの病室に戻るが、ノックをしても返事がない。カギがかかってないのでそのまま部屋に入ると二人とも瞑想…点をしていた。モチベーションが高い。そっと部屋を後にし、自室で明日に備えて寝た。

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念の修業である。まずは纏を完全にマスターすること、と言われ病室でゴン達が行っているのと同じく点で始まった。呼吸するように自然と、とまではいかないがスムーズに纏ができるようになると次は絶だ。精孔を閉じ、完全にオーラを消す。そして全身からの力――オーラを溜め、一気に外に出す練。

そもそも日頃から霊圧を上げたり下げたりしていたので、その感覚を頼りにやるとどれもあっさりと成功した。霊圧と違って完全に消せる絶にちょっと手間取ったくらいだ。横で見ていたズシがひどく唖然としていたが、元々精孔を開く前からある程度似たような感覚はあったのだ、というと少し落ち着いた。ウイングさんによると私の精孔は会った時には既に開きかけの状態にあったらしい。それでも一日でここまで習得するのは異常らしいが。

まあでも期限は2か月あるので、焦らず個々の技術の向上をしましょうという事でそこからは毎日纏、絶、練を磨いていった。しかし、一週間経った頃には文句ない仕上がりになったようで、次の段階に入ると言われた。

「水見式?」
「はい。さんはもう発に入っても大丈夫でしょう。というより、鬼道でしたか? 貴方の使うその技は既に発の一種と言えるでしょう」
「そうなんですか?」
「はい。発とはオーラを自在に操る技術。つまり念能力の集大成といえます。これは6つのタイプに別れます」

言いながらウイングさんは用意してあったホワイトボードに六角形を描き、各頂点に強化、変化、具現化、特質、操作、放出と一周するように書き込んだ。自分がどの系統に属するかを調べ、それに沿った鍛練をするのが大切らしい。それを調べるのがこの葉をグラスに浮かべた水見式という訳だ。

「ではそれに手を近付けて練をしてみてください」
「はい」

手を翳す。ふっと息を吐いて練をすると水がだんだん青味がかって来た。と思いきや青い部分は沈殿していく。

「初めてにしては顕著ですね…。水の中に不純物ができています。これは具現家系に属する反応です」
「オーラを物質化する系統、でしたっけ」
「そうです。物質化した物に特殊な能力を付加する能力者が多いですね。では、これからはこの反応がより顕著になるよう鍛練をしましょう」
「はい」

修業を始めてから1月近くが経つ頃には、最初はキラキラした欠片だったのが大粒のビー玉サイズの物がごろごろ出てくるようになった。その宝石のような石は不思議と始開状態のの核にそっくりだった。かなりの数になったので、ウイングさんに紹介してもらい念具のお店に持っていったら億単位で売れた。この先金欠とは無縁でいられそうだ。そして、が言うにはそろそろ出られそうということなのでお披露目をしたいと思う。