07
案の定キルアが突っかかってきた。
「なあ、ヒソカの言い方だとは前から念が使えたみたいだったけど…」
「いや、念は使えなかったね。でも似たようなことは前からできたよ」
「え!? そうなの?」
ゴンが驚いた感じでこちらを見るが、確かに瞬歩以外今まで使っていない気がする。一番分かり易いのはなんだろう。
「壁を蹴って壊したときとか…こう、オーラ? を足に力を集める感じで使ってたかな」
「それであの馬鹿力か…」
「あ、キルア、馬鹿ってのは酷いよ」
ヒソカの殺気の反動もあってその場で話していたら通路の奥からわらわらと人が少し遠巻きに寄ってきた。皆雰囲気が薄暗く、体に欠損がある。洗礼を受けた人たちなのだろう。こちらを見てこそこそと話している
「…やな感じ」
「行こう」
「ああ」
ゴンの言葉にキルアが頷き、3人で受付をする。受付嬢の話をまとめると、最長90日ごとに戦い、10勝するとフロアマスターと戦え、勝つとそれなりに様々な名誉や特典があるようだ。しかし。
「私は199階までのお金の方がうれしいな」
「かもな。どーする? オレ最上階の秘密分かったからもーいーや」
「オレもヒソカと戦えればそれでいい」
興味なし。と無反応な私達に受付嬢のお姉さんが悔しそうだがスルー。それよりも先程より近くでこちらを伺っている連中である。新人潰しがしたいのだろう。すぐに戦いたいというゴンだけが受けて立った。ウイングさんのいい付けは無視のようだ。
案内されたそれぞれの部屋に向かう。とりあえずゴンの部屋に入るとかなり豪華な内装だった。190階台とは段違いだ。備え付けのテレビにゴンの試合は明日だと告知されていた。早くこの新しい力を実感したくてうずうずしてるゴンに、キルアと二人で顔を見合わせてその日は終わった。
次の日の午後3時。ゴンと新人潰しの一人である一本の義足に杖を突いたギドの試合だ。ギドは開始早々いくつものオーラに覆われたコマをリングに放った。それぞれが独自に動いて跳ね回り、時にぶつかりあってはゴンに攻撃した。背後からの一撃が当たり、審判が叫ぶ。
『クリーンヒットォ!!』
「あんなに小さいコマなのにゴンは結構飛ばされたね…」
「それも念なんだろ?」
コマの威力は見た目より強くて、体がちぎれるほどではないが骨の一本や二本は折られそうだ。観客席で隣に座るキルアはいつも通りに振舞おうとしているが、言葉が固い。何でもないフリしてゴンが心配なのだろう。意地を張っているのだ。手が固く握りしめられているのがその証拠だ。
08
可愛い奴め、とか考えていたらゴンがコマを今度は頭に食らった。体勢をもろに崩して床に叩きつけられる。
『クリーン&ダウン!! ポイント2!!』
「一応目で追えてはいるみたいだけど」
「ああ。数が多くて追い切れないんだろ」
「あ。纏が消えそう…」
「え? あ、コラ、止まるな!」
キルアと話してる間もゴンはかろうじてコマを躱しているが危なっかしい。目を閉じて気配で追おうとしているようだが、集中しすぎると纏がおろそかになるようだ。立て直そうとした隙にまた背後から一撃くらって今度は場外まで弾き飛ばされる。
「ゴンとしては打つ手なしかな」
「いや、コマを無視して本体に攻撃すればいいんじゃね?」
「でも相手もそれに対策を打っていないとは思わないけど」
「あー。またはじかれやがった」
予想通り本体に向かって行ったゴンは自身も激しく回転するギドにはじかれた。また場外だ。今度は審判にクリティカルダウンを宣言され、3ポイント取られる。これで9ポイントだ。後がない。隣でキルアが叫ぶ。
「ゴン!! 攻撃しないでほっとけ!! その内そいつ、目を回すぞ!!」
「ケッ…素人考えだなボウズ。訓練次第でそんな問題は解決できるのさ。一流のアイススケーターは…」
「だれだテメーは!?」
「ぐっ…!!」
反対側に座ってた訳知り顔のおじさんがキレたキルアに殴り飛ばされる。今のキルアは刺激しない方が良いのだよ。とか騒いでいたらゴンが完全に纏を解いてしまった。それもただ解いただけではなさそうだ。オーラを全くと言っていいほど感じない。
「ゴン!?」
「何するつもり!?」
「バッカ野郎、ウイングが言ってただろ!! 念の攻撃を無防備で受けちまったら生身の体はひとたまりもないんだぞ!!」
しかし、こちらの心配をよそにゴンが試合開始後初めてコマを避けた。その後もすいすいとコマの間をぬって避けていく。
「完全に気配を探ることに集中したって訳か…」
「そうみたいだね」
その後は事態が膠着した。自分で攻撃はせずコマを操るしかできないギドと、避け続けるゴン。しかしそんな状態も1時間で動いた。避けた方向がまずい。
「ばっ、そっちは駄目だ!!」
キルアが叫ぶも、逃げ場がないのはどうしようもない。かろうじて腕で体をかばったようだが、大怪我だろう。試合が終わったので、ゴンはスタッフによって担架で運ばれていった。
「行こう、キルア」
「ああ。って引っぱんなよ!」
「ごめん」
私だって心配なものは心配なのだ。
09
治療を受けてるゴンに代わって医者からの説明を受けてから見舞いに向かった。大層な怪我にキルアがお冠なので文句を言うのは任せようと思う。
「ゴン、入るよー」
「どうぞ」
ノックして病室に入るとゴンはベッドに身を起こしていた。キルアはつかつかと歩み寄ると問答無用の責めを開始した。
「右腕とう骨・尺骨完全骨折、上腕骨亀裂、ろっ骨3か所完全骨折、亀裂骨折が12か所」
「おお。一息」
「あぁ?」
茶化したらぎろっと睨まれた。大人しく黙ってます、はい。
「全治4か月だとさ。この、ドアホ」
「…ごめん」
「オレに謝っても仕方ねーだろ! 一体どうなってんだこの中はよ!?」
「う、あう」
キルアは一言ごとにゴンの頭をつんつんしながら責め立てる。それからも色々言うが、堪えてないのかゴンが反論する。
「う〜…でもさ、大丈夫かなって思ったんだよね。何回か攻撃を受けてみて…まあ急所さえ外せば死ぬことは…」
しかし何言ってんだアホが、とばかりにキルアに怪我してる方の腕をぐりぐりされて言い訳は封じられた。黙ってればいいのに、と見てると扉がノックされた。
「はいよー」
「どうぞー、ってウイングさん」
ドアを開けると居たウイングさんはこちらを一瞥だけするとまっすぐゴンに向かって行く。
「あ…その、ごめんなさ」
ゴンが謝ろうと口を開くが、全部言い終わる前にウイングさんの平手が炸裂した。そのまま怒鳴る。
「私に謝っても仕方ないでしょう!! 一体何を考えてるんですか!! 念を知らずに洗礼を受けた人たちを見たでしょう!!君自身ああなっいても全くおかしくなかったんですよ!!」
「あ、それオレが言っといた」
キルアの合いの手にウイングさんはやっと一息つくとゴンの肩に手を置いた。
「全く…この程度で済んでよかった。本当にもう…」
「ウイングさん…ホントにごめんなさい」
「いーえ。許しません!」
しんみりしていい感じに話がまとまりそうだったがそうは問屋が卸さないらしい。
「キルア君、さん、ゴン君の完治はいつ位になるか知っていますか?」
「確か…」
「医者は2か月って言ってたけど」
「わかりました」
え。と思って横目でキルアを見ると実にイイ顔で笑っていた。さいですか。まあ確かにそれ位で治してしまいそうだが。
「今日から2か月間一切の試合を禁じます!! 念の修行および念について調べることも許しません! 今度これが守れないようであれば君に教えることはもう何もありません。どうですか?」
「わかった! ちゃんと守るよ。約束する」
今度は大丈夫だろう。ゴンも真摯な顔で頷いている。ウイングさんは何やら力を感じる紐をゴンの指に巻くと私とキルアを部屋の外へ誘った。