04

「ウソ!?」
「ああ」
「私もそう思うな」

ウイングさんたちの宿からの帰り道、キルアは先程の話を嘘と断じた。確かにあれではズシ君の異常なまでの打たれ強さは説明できまい。

「あの試合、いくら倒しても起き上ってくるからちょっと意地になっちゃってさ。最後につい本気出しちゃったんだ」
「!」
「うわぁ。それでも効かなかったの?」
「ああ。あれは意志の強さでどうこうなるレベルを超えてるよ。絶対他に秘密がある!」
「でも教えてくれななさそうだよね」
「こうなったら自分達で調べるだけさ」
「うん!」





そして私達はまた試合に精を出し、ストレートで200階に到達した。いまはその階に向かうエレベーターの中だ。ゴンがわくわくしているのが良く分かる。

「どんなとこかな? 200階は」
「さぁな。オレもこっからは行ったことないからなぁ」
「また100階のカベみたいのがあるんじゃない?」

しかし扉が開いて一歩200階に踏み入れた瞬間、空気が変わった。選手控室に向かう通路だけがまるで異界のようだ。2人は気圧されたようだが、キルアが一歩前に踏み出す。

「行くぜ。行ってやる!」

だが、一歩進むごとに重圧は増していき、通路の途中で足が止まってしまう。私はまだ進めるのだが。ゴンが叫び、キルアが誰何する。

「これは殺気だよ! 完全に俺たちに向けられてる!」
「おい! いったい誰だ!? そこにいる奴出てこいよ!!」

はたしてその呼びかけに答えたのは一人の受付嬢だった。200階クラスの登録の説明をする。今夜0時までに登録をせねばならず、200階には173人もの選手がおり、武器の使用が解禁されるようだ。

「この殺気…あいつかな」
「わかんねー」
「…いや、違うよ」
「え?」
「! おい」

誰か出てくる。

「ヒソカ!?」
「◆」

出てきたのは本当の殺気の出所にして、ヒソカだった。私達の事を調べて先回りして待っていたらしい。

「そこで、ここの先輩として君たちに忠告しよう◆ このフロアに足を踏み入れるのは、まだ早い◇」

彼が手を振った瞬間、突風が吹いたかのような殺気が襲う。間に立っている受付嬢は異変に気付かないようだが。

「?」
「どのくらい早いかは君達次第◆ 出直したまえ◇ とにかく今は早い◆」
「ざけんな! せっかくここまで来たのに…、…!!」

キルアの言葉の途中で手をかざしたヒソカの威圧感がより一層高まる。いままで空気を読んで同じ地点で足を止めていたが、一歩前に出て2人をかばう。

「やはりね◆ キミはその二人とは少し違うようだ◇」
「…」

その時、後ろから気配が近付いてきた。

05

「無理はやめなさい」

後ろから来たのはウイングさんだった。

「彼の念に対して君たちはあまりに無防備だ。極寒の地で全裸で凍えながら、なぜつらいのかわかっていないようなもの。これ以上心身に負担をかけると死にかねないよ」
「これが燃だと!? あいつが『通さない』って思うだけでこうなるってのか!? ウソつけ!!」
「はい。あれはウソです」

キルアが噛み付くが、ウイングさんはしれっとしている。本当のことを教えてくれる気になったようだ。現在の時刻は8:20。登録にどうしても今日中に戻って来なければならない。

「ひとまず…退いて、0時までに戻ってこれるかい? ここに」
「君次第だ」




ウイングさん達の宿に行き、改めて実演してもらう。花瓶より柔いはずの花が陶器にきれいに刺さっている。花を念で強化したらしい。

「念とは、体からあふれ出すオーラと呼ばれる生命エネルギーを自在に操る能力のこと!」

誰もが持つ生命エネルギーは皆たれ流しになっている。それを肉体にとどめる技術を纏といい、肉体は頑強になり若さを保ちやすくなる。オーラを絶つのが絶、気配を消したり疲労をいやす。練は通常以上のオーラを生み出す。これで悪意を持って攻撃をするとそれだけでも人を殺せるほどだという。

「念の使い手から身を守る方法は一つだけ。自分も念の使い手になること。纏による防御のみ。自分のオーラで相手のオーラを防ぐ。でないと…」

ウイングさんは壁に手を当てる。特に力を込めた気はしないが、圧力だけが上がり壁は広範囲にわたってひびが入った。

「肉体はコナゴナに壊されます」

ゴンとキルアが息をのむ。

「これが“念”。誰もが本当は内に秘めている力。現在この能力を一部でも使いこなせる者はごくわずか。それゆえ天才、支配者、超能力者、仙人、超人などと呼ばれ特別視される。さんもその一人のようです」
が!?」
「そーいや、ヒソカ相手にも一人だけ平気そうにしてたよな…」
「でもウイングさんみたいなことはできないよ」
「それはまだ完全に力が目覚めていないからでしょう。その方法は2つあります。ゆっくり起こすか、ムリヤリ起こすか」

ちなみにズシはゆっくり起こし、半年かかったそうだ。私達なら1週間かからないかもしれないらしい。でもそれでは登録に間に合わないので、私たちはムリヤリ起こすことになる。ウイングさんは危険性について説明しながらも微妙な表情だ。

「残念です。不本意な方法しか取れないこの状況がね」
「…」

ムリヤリ起こすのは外法と呼ばれる裏ワザだから本当は使いたくないようだ。死ぬ危険性も伴う。でも、ウイングさんは念を知らぬまま私たちが200階で試合をし、洗礼と呼ばれる攻撃を受けるのを黙ってみていられなかったそうだ。それで教えてくれる気になった。

「上着を脱いでこちらへどうぞ。そして背を向けてください」

06

3人でウイングさんに背を向けて立つ。背後で増す霊圧に落ち着かなくなる。掛け声の後、私達の精孔が開かれた。

「お…おお!?」
「これは!?」
「…っ!!」
「それが生命エネルギー、オーラです。今全身の精孔は開かれました」

凄い解放感だ。同時に目にオーラが見えるようになった。まるで今まで受信出来なかったチャンネルが突然クリアになったようだ。と、自分にしか聞こえない声がした。

――
――? どうしたの?
――蓋が無くなった。だが今すぐ顕現するのは難しい。
――分かった。出れるようになったら言って。

会話をしながら、ウイングさんに言われるままオーラを体に留める。ゴンとキルアも成功したようで、二人ともゆらゆらと揺らめくオーラを纏っている。

「どんな感じですか?」
「…何か…ぬるい粘液の中にいるみたいだ」
「うん…重さのない服を着てるみたいだ」
「五感以外に新しい感覚を得た感じ」

三者三様の感想に満足そうなウイングさんは改めて私達に敵意を持って念を放つ。無事防いだのを見てにっこり笑って注意事項をいくつか言ってから行ってらっしゃい、と送り出してくれた。

念を放たれた時、オーラの高まりと霊圧の高まり両方を感じた。やはり念と霊力は連動しているのだろう。でも、試験の時の感じから言って完全に同じものではないし、念が操れるからと言って霊圧の操作を意識してやっているわけではなさそうだ。これなら鬼道をおおっぴらに使っても念です、と誤魔化せそうだ。便利である。




200階へ戻り、ヒソカのプレッシャーを抜ける。ゴンとキルアはもう闘う気まんまんといった風情でヒソカを見遣るが、相手は飄々としたままだ。

「纏を覚えたくらいでいい気になるなよ◆ 念は奥が深い◇」

言いながら指先のオーラの形をスペード、髑髏、と次々変えていく。

「ゴン、はっきり言って今の君と戦う気は全くない◆ …でも」

途端、圧力が一気に増す。いきなり凶悪すぎる念にさらされたゴンとキルアが反射的に飛び退く。それを横目にヒソカをその場で睨み返すとさもおかしそうに嗤った。咄嗟に霊圧を高めて防御してしまったが、思惑通りの反応を示したのだろう。

「くっくっく◇ 、やはり君は違うね◆ 1次試験の時からオーラが動いてたよ◇ 君とはぜひ今からでもヤりたいな◆」

言って、ねっとりとした視線でこちらを嘗め回すように見る。気持ちが悪くて冷や汗が出る。それに、後ろからゴン達の視線も感じた。

「…2ヶ月は戦うなっていい付けられてるんだけど」
「良いだろう◇ 待ってるよ◆ …ゴンはこのクラスで一度でも勝つことが出来たら相手になろう◇」

ヒソカはイイ顔で去って行った。