天空闘技場01

半年後の約束を胸に空港でクラピカ達を見送った。

「あっという間に3人になっちゃったね。さて、どーする?」
「どーするって特訓に決まってんだろ」
「え? 何の? 遊ばないの?」
「むしろ遊ぶつもりだったの?」

すっとぼけたことを言うゴンに私は素で返したが、キルアがキレた。

「お前なー。今のまんまでほんとにヒソカを一発でも殴れると思ってんのか!? 半年どころか10年たってもムリだっつーの!」

そのまま地面に強さの相関図を書いていく。ヒソカとハンゾーを近くに書き、かなり離れたところにゴンだ。じゃ、キルアとは?との質問に対してはハンゾーのヒソカと反対くらいのところに書く。ふむ。私はキルアと同じくらいのラインで、ハンゾーよりも低く見られているらしい。別にかまわないし、キルアの前では碌な立ち回りもしていないが。強さの差が分かることに感心するゴンにキルアは若干照れながらも解説を続ける。

「…まぁなんにしてもヒソカは相当強い!」
「うん!」
「そうだね」
「並大抵のことじゃ、半年で一矢報いるのはムリだ」
「うん」
「二人とも、金はあるか?」
「うーん…実はそろそろやばい」
「私もかな…」
「オレもあんま持ってない。そこで一石二鳥の場所がある。…天空闘技場!」




キルアの案内で飛行船に乗り、着いたのはタワーとも呼べそうな建物だった。地上251階、高さ991mの世界第4位の高さを誇るそうだ。路銀はここまでくる飛行船代でほぼついた。あとはここで稼ぐしかない。

むさい男連中しかいない列に並ぶ。子供、ましてや女の子が珍しいのか、皆ちらちらとこちらを見てくる。キルア曰く、相手をぶっ倒すだけでいいここは野蛮人の聖地だそうで。登録するときも入れ知恵された。格闘技歴10年…ゴンなんて0年だろうに。

受付を終え、建物に入ると確かにそこは野蛮人の聖地だった。十一番隊の雰囲気が丁度こんな感じだった気がする。いくつものリングで男たちが殴り合っており、観客も野次を飛ばしまくりだ。

「なつかしいな〜ちっとも変ってねーや」
「え? キルア来たことあるの?」
「そういえばやけに詳しいよね」

6歳の頃に無一文で放り込まれたらしい。2年かかって200階まで行ったようだが、意外と放任主義なんだろうか。いや、影から監視でもしていたのだろう。適当な観客席に座ると、すぐにゴンが呼ばれた。緊張気味のゴンにキルアが何やらまた入れ知恵をしていた。

「何か悪巧みしてる顔だよ」
「ちょっとアドバイスしただけだよ」

言いつつもほくそ笑んでる。リングにゴンが上がった。あいては大柄で筋肉質なオジサンだ。だが、勝負は一瞬で決まった。ゴンが押しただけで観客席の近くまで相手が吹っ飛んだのだ。

「なるほど…4トンは伊達じゃないってことだね」
「まあね。お、次はオレか」
「行ってらっしゃい」
「おう。先行ってるぜ」

キルアは見事な手刀で勝った。あれって手加減が難しいんだよね。最後に呼ばれた私の相手もむさいオジサンだった。汗臭くて触りたくもないので蹴り出す。50階に向かうように言われながらちょっと飛ばしすぎたかな、と思っていると他のリングで歓声が上がった。見ると、髪を短く刈って道着を着た同い年くらいの少年が勝ったようだった。

02

3人でエレベーターに乗ると、先程別のリングで勝っていた道着の少年と一緒になった。同じ50階で降りると、元気良く挨拶してくる。

「押忍! 自分、ズシといいます! お3方は?」
「オレ、キルア」
「私はだよ」
「オレはゴン。よろしく」

一緒に話しながら歩く。試合を拝見した、とか自分なんかまだまだ、とかずいぶん謙虚で礼儀正しい子である。いかにも道場で心身ともに鍛えてます、という感じだ。

「ちなみにお3方の流派はなんすか? 自分は心源流拳法っす!」
「別に…」
「…ないよな」
「ええ!?」
「あ、私は四楓院流ってことになるかも」
「ですよね!? 誰の指導もなくあの強さなんて…ちょっぴり自分ショックっす」
「ズシ! よくやった」
「師範代!」

ズシ君の師匠は寝癖にシャツを半端に出している青年で、ウイングと名乗った。ゴンとキルアがズシ君につられてオス、と挨拶するのが微笑ましい。

「まさかズシ以外に子供が来ているなんて思わなかったよ。君たちは何でここに?」
「えーと、まあ強くなるためなんだけど」
「あと、お小遣い稼ぎも兼ねてます」
「キルアここの経験者なんです」
「そうか…ここまで来るくらいだからそれなりの腕なんだろうけど、くれぐれも相手と自分、相互の体を気遣うようにね」
「オス!」
「はい」

良いことを言う人だ。ウイングさんに見送られて、1階のファイトマネーでジュースを買い、控室に入る。次に勝てば5万、200階まで行くと2億は稼げるらしい。4年でキルアは全てお菓子代に消えたそうだが。1か月あたり400万以上使うとは、どんなお菓子を食べていたのだろうか。しばらく雑談していると、キルアとズシ君が呼ばれた。もう勝った気でいるキルアには苦笑するしかないが、見る限りズシ君の霊圧が高い。きっと念能力者なのだろう。ウイングさんもそうだったし、に会えるのもそろそろかもしれない。




また対戦相手を蹴り出し60階ロビーに行くが、キルアはなかなか来なかった。ついでなので賭けのやり方を調べておく。自分には賭けられないが、選手であれ他人になら賭けても良いらしい。ならば3人でお互いに賭け合い、一儲けできそうだ。お金はありすぎても困らないだろう。

遅れてやってきたキルアはどこか憮然としている。ズシ相手に思うようにいかなかったようだ。何発も入れたようだが、ズシは無事だろうか。

「それに…あいつが構えを変えたとたん、兄貴と同じ嫌な感じがしたんだ」
「!」
「何か…わかんないけどヤバイ感じ。あれきっと何かの技なんだ!」
「そうだろうね」

どう考えても念能力だ。

「あいつの師匠が“レン”って言ってた。二人とも…オレちょっと予定を変えるぜ。最上階を目指す!」
「うん!」
「いいね」

03

それからは3人で快進撃だった。二つ名も付いた。手刀のキルア、押し出しのゴン、蹴りの。皆無傷で毎日順調に勝ち星を挙げ、キルアの言う100階のカベにぶつかることもなく150階まで到着した。この間1週間。キルアは自分が初めて来た時(6才)とのスピードと比べて悔しがっていたが、年齢差からして当たり前の結果だろう。

「あ、そーだ。さっきTVにズシが映ってた」
「見た見た。あいつまだ50階にいたな」
「あれからも勝ったり負けたりしてるみたいだよね」
「…」
「キルアがすごく嫌な感じがしたっていう“レン”って一体何だろうね…」
「んー、多分もっと上のクラスに行けば同じような奴がいるかもしれないから…」
「それよか、ズシに聞いた方が早いんじゃない?」
「教えてくれるかな?」
「とにかく一度聞いてみようよ!」

前向きなゴンに押されて聞きに行くことになった。




闘技場の廊下でズシ君を捕まえた。

「“レン”はヨンタイギョウの1つっす。ヨンタイギョウとはシンを高めシンを鍛える全ての格闘技に通じる基本っす」
「!?」
「テンを知りゼツを覚えレンを経てハツに至る。要するにこれ全てネンの修行っす!」
「?」
「以上っす!」
「わかんねーよ!!」

意味不明な単語の羅列にキルアがキレた。しかし、ウイングさんがやってきてやんわりと知るのを止めようとする。だが、知ろうとするキルアの意志は強い。兄の事も引き合いに出してウイングさんを上手く丸め込んでいく。

「…わかりました。私の宿へ行きましょうか」




場所を宿に移して今度はウイングさんが説明してくれる。燃とは意志の強さ。四体行は点で目標を定め、舌で言葉にし、錬で意志を高め、発で行動に移すものであり、前の試合でキルアはズシの“負けない”という錬に気圧されたのだそうだ。納得いかない顔をする私たちにウイングさんは実践して見せた。
 
「キルア君。これから君を殺したいと思います。いいですか?」
「ああ、いいよ。ムリだから」

自信満々だが、キルア。どう考えてもウイングさんの方が強そうなんだが。

「順序良く行きましょう。『点』」

言って、少し腰を落とし目を閉じて集中する。特に変化はない。

「『舌』。これは頭で想っても口にしても結構です。――君を殺す」

そして、次の瞬間。すごい勢いの殺気がこちらを襲った。咄嗟に霊圧を上げて抵抗する。ウイングさんがピクリと動いた時、耐え切れなくなったのだろうキルアが部屋の隅まで飛び退いた。

すっ、と気配を戻してウイングさんは説明を続けたが、何か難しい顔をしてこちらを見ている。今の一連の行動がハッタリの語源? 信じにくいだろう。だが、その場はそれで辞した。