04

そこからは先程の焼き直しだった。違うのは私が受け止めないことと、ゴンの顔の怪我がどんどん増えていくことだ。

どれくらい時間が経っただろうか。辺りはすでに暗くなってきて、ゴンの顔はすごいことになっている。いくら殴っても敵意もひるむ気配も見せないゴンに執事の子の方が引いてきた。ついに我慢が出来なくなったのだろう、ゴンを止めようとする。

「もう…やめてよ…」

それでもゴンは歩みを止めない。

「もう来ないで!」

言いながら、境界を越えるゴンをもう一度殴る。しかし力が弱かったのか、今度は立ったままに堪えるゴンにこちらに矛先を向けてきた。

「いい加減にして! 無駄なの、わかるでしょ! あんた達も止めてよ!! 仲間なん…」

こちらを見た途端言葉を詰まらせた。私も今自分がどんな表情をしているかわからないが、そんなに怖い顔でもしてただろうか。私はそれよりも、覗いている何者達が気になっている。

「なんでかな」

血を滴らせたゴンが絞り出すように言う。

「友達に会いに来ただけなのに、キルアに会いたいだけなのに。何で、こんなことしなきゃいけないんだ!!」

叫びながら門柱を殴って砕いた。もう脚が線を越えているが、執事の子はたじろいでしまっていて殴る気配がない。よく見ると杖を握る手が震えている。ゴンが説得にかかった。

「君はミケとは違う。どんなに感情を隠そうとしたってちゃんと心がある。キルアの名前を出したとき、一瞬だけど目が優しくなった」

もう耐えられなくなったのか、執事の子は涙を流した。

「お願い…キルア様を助けてあげて」

その言葉に殺気が膨れ上がった。咄嗟に飛んでくる何かに石を投げて落とす。有刺鉄線の向こうの茂みから覗いていた2人組が出てきた。

「全く、使用人が何を言ってるのかしら」

一人は豪奢なドレスを着て目元を機械で覆った女性、もう一人は着物を着た日本人形のような女の子だ。女性の方がキルアからの伝言を伝えてきた。私たちがいることは把握していたようだ。母親だと名乗ったその人は、キルアが自ら独房にいることを伝えると一人で騒ぎ出した。去り際にゴンが伝言を頼んだが、伝わるかどうか。カルトと言うらしい女の子もこちらを睨んでから母親と行ってしまった。

薄気味悪い連中だ、と言うレオリオが追いかけていくことを提案するが、ゴンは動かずにいる執事の子を気遣って断った。確かに私たちは不法侵入者であり、彼女は門番だ。通ってしまったら責任問題だろう。しかし、執事の子は我を取り戻すと案内をしてくれるというので、皆で執事室に向かった。

05

執事室…改め執事屋敷に着くころには辺りはすでに真っ暗だった。ゴンは治療をしてもらい、私たちは入り口で一列になって礼をした執事の人たちに歓待を受けた。

「ごゆっくりおくつろぎ下さい」
「心遣いはうれしいが、オレ達はキルアに会うためにここに来た。出来ればすぐにでも本邸に案内してもらいたいんだが」
「その必要はございません。キルア様がこちらに向かっておいでですから」

レオリオの問いに返された答えに皆で喜んでいると、待っている間にゲームをしようと提案された。投げ上げたコインをどちらの手で取ったかを当てるゲームだ。最初はほのぼのと進むかに思われたが、執事の人がキルアを連れ出す私達への憎悪を露わにした所から俄かに緊張を帯びる。間違えるたびにアウトを取り、一人ずつ消すとまで言われた。まあ、ちょっと早いくらいの手の動きなら見切れているのだが。

人数が増えていっても確実に正解するこちらに、いつの間にか殺気をしまった執事たちが拍手を送る。と、外からキルアがこちらを呼ぶ声がした。ゴンが素早く反応する。

「キルア!」
「ゴン! ! あと、えーと、クラピカ! リオレオ!」
「久しぶり、キルア」
「ついでか?」
「レオリオ!!」

嬉しそうにこちらに駆け寄るキルアだが、クラピカと、特にレオリオの扱いがひどい。ゴンと二人でひとしきりお互いの顔の怪我のひどさを笑った後、さっさと出よう、とこちらを急かした。先程まで演技でなく怒ってたであろう執事たちに礼をされて見送られた。




行はバスで来た長い道を辿り町まで戻る。

「…それにしても、お前本当にガンコだな〜」

キルアはハンター証を使わず、観光ビザでこの国に来たことを言ってるようだ。でも、ゴンが譲らなかったのだ。

「だって決めたんだもん。やること全部やってから使うって」
「なんだよやることって」

世話になった人へのあいさつなど数え上げるゴン。だが、次の言葉には力がこもっていた。

「かくかくしかじかで渡されたこのプレートをひそかに顔面パンチのおまけつきでたたき返す! そうしないうちは絶対ハンター証は使わないって決めたんだ!!」
「ふーん。で、ヒソカの居場所は?」

だが、キルアに言われて急に勢いを無くす。やはり知らないらしい。皆で呆れるが、クラピカが知っていた。

「本当?」
「なんで知ってるの?」
「本人に直接聞いたからだ」
「…あの時か?」

レオリオが言うあの時、とは最終試験で何かヒソカに囁かれていたことだろう。実際はクモについていいことを教えよう◆、と言われたそうだ。幻影旅団の事を通称クモと呼び、彼らが9月1日にヨークシンシティに現れるとヒソカは言ったらしい。その日からヨークシンでは世界規模のオークションが開かれるので、それを狙ってやってくる公算が強い。見つけたら連絡くれるそうだ。

「じゃ、私はここで失礼する」
「え?」
「キルアとも再会できたし、私は区切りがついた。オークションに参加するためには金が必要だしな。これからは本格的にハンターとして雇い主を探す」
「そうか…」
「クラピカ、ヨークシンで会おうね!」
「さて…オレも故郷へ帰るぜ」
「レオリオも!?」
「やっぱり医者の夢は捨てきれねェ。国立医大に受かればこれでバカ高い授業料は免除されるからな。これから帰って猛勉強しねーとな」
「うん。がんばってね」
「またあおうぜ」
「そうだね。次は」
「9月1日ヨークシンシティで!!」