ゾルディック家01
ハンゾーやポックル、サトツさんと多少話をしたが、皆三々五々に散って行った。そして私達4人は電脳ページをめくる、ことになった。要するにインターネットをブラウジングする事らしい。クラピカがククルーマウンテンの事を調べる。パドキア共和国にあるそうで、飛行船の今日すぐの便を予約した。さらにゴンの父、ジンの事を調べるが極秘指定人物と出ただけで何もわからなかった。
飛行船で3日。そのあと列車に乗りついでデントラ地区に着いた。ハンター証のおかげで大層快適な旅だった。列車の窓から見えたククルーマウンテンは大きな山で、記憶の彼方の富士山と同じくらいの大きさらしい。
クラピカとレオリオが慎重論を述べたが、ゴンは大丈夫! と言うのでそのままふもとの町で聞き込みをすることになった。が、あっさりと答えを得られた。しかもその辺の町にいる普通のおばちゃんから。
「ゾルディック家の観光かい? 山景巡りのバスが日に1本ガイド付きで出てるよ」
唖然としている様子の2人をゴンと引っ張ってバスに乗る。可愛いガイドさんも付いたごく普通のバスだ。ただし、一部おかしな客が乗っていた。
「普通の観光客に混じって、明らかにカタギじゃねえような奴らが乗ってるぜ」
レオリオが言うが、プロハンターの私達は、はたして純粋に堅気と言えるのだろうか。見た目は周囲に問題なく溶け込んでるが。特にゴンは景色にはしゃいでいて観光客そのものだ。なぜかバスガイドさんが知っているゾルディック家の家族構成などを聞き流していると、大きな門の前にバスは止まった。
数字で段になった扉は見上げても全容がわからないほど巨大だ。一緒に乗ってきた観光客たちが口々に感嘆の声を上げる。だが、この先は私有地で見学できないそうだ。そんな中、ゴンがバスガイドさんに声をかけた。
「ねェ、ガイドさん。中に入るにはどうしたらいいの?」
バスガイドさんはちょっと迫力のある笑顔でできないと言うが、例の明らかに物騒な見た目の2人組が進み出た。
「ハッタリだろ?」
その後もゾルディック家に対する自説を語って、乱暴にも守衛さんを引きずり出した。締め上げて脅すが、開けようとしない守衛さんから無理矢理鍵を奪うと正面の門ではなく横の小さい扉から入って行った。ゴンと倒れた守衛さんに駆け寄る。
「大丈夫?」
「怪我はない?」
「ああ、大丈夫だよ」
答える守衛さんはけろっとしている。
「あーあ、またミケがエサ以外の肉食べちゃうよ」
主旨の分からないその言葉の答えはすぐに出た。先程の2人組が大きな獣の腕につままれ、白骨死体となって戻ってきたのだ。周囲の観光客は悲鳴を上げ、バスへ逃げていく。残ると言った私達を気が触れたとでも言いたげな目で見たガイドさんも乗せてバスは去って行った。
02
残った私たちを、守衛のおじさんは扉の脇の小部屋に招いてくれた。バケツに入れた先程の2人組の白骨と一緒に。キルアの友達であると言うと、本当に嬉しそうに頭を下げた。でもならば余計に敷地に入れる訳にはいかないという。ミケの後始末をするおじさんは守衛ではなく、掃除夫なのだそうだ。色々と話をしたが、扉に鍵がかかっていないと聞くや否や、開けてみる事となった。真っ先に走り出たレオリオが挑戦する。
「んぎ…ぎがが…!」
が、どの方向に力を込めても扉はびくともしなかった。
「ハッ…ハッ…押しても引いても左右にも開かねーじゃねーかよ」
「レオリオ、交代」
息切れしつつも吠えるのにタッチする。確かとてつもなく重いんだよね? 呼吸を整え、霊圧を高める。この世界では、念の影響なのか霊圧を高めると純粋な膂力も上がる。
「ふっ…!」
「おお!」
重たい音を立ててゆっくりと横に1本棒が書かれている扉が開いた。開き切ったので手を放したらすぐに閉じてくるのであわてて避けた。
「うわっ」
「こりゃ驚いた…」
心底感心した風のゼブロさんが言うに、段々になっている扉は重さが倍々になっており、今開いた一番小さなものでも片方2トンあるそうだ。レオリオが人外を見るような目で見てくる。だが、キルアは3の扉の16トンを開けて帰ったらしい。
「つまり、試しの門さえ開けられないような輩はゾルディック家に入る資格なしってことです」
「うーん。気に入らないな…。おじさんカギ貸して」
「え?」
「友達に会いに来ただけなのに試されるなんてまっぴらだから、オレは侵入者でいいよ」
言って手を差し出すゴンはいさめるレオリオとクラピカの話にも耳を貸さない。こうなったらてこでも意見は動かないだろう。困ったゼブロさんはどこかに電話をかけたが、平謝りしてすぐに切った。屋敷ではなく執事に連絡を取ったが、叱られたようだ。今度はゴンがかけた電話に出るが、すぐに切られてしまう。何を言われたのか、ゴンがいたくご立腹だ。もう一度かけ直す横で耳をふさぐ。
「なんでお前にそんなことわかるんだ! いいからキルアを出せ!!」
その後も少しのやり取りをしただけで、小屋を飛び出してしまった。完全にキレている。そのまま塀をよじ登ろうとするのを3人で止めようとしていると、ゼブロさんがカギを渡すという。
「そのかわり私も侵入者の門からついていきます」
「え?」
一緒に殺される、見殺しにしたらキルア坊ちゃんに会わせる顔がない、と言うゼブロさんにゴンも冷静になる。今度はゼブロさんが扉を開け、皆でミケを正面から見ることとなった。
03
扉をくぐり、正面から見たミケにゴンは完全に戦意を無くした。あまりにも無機質な目に圧倒されているようだった。その後、ゼブロさんは泊まっていきなさい、と私たちを使用人の小屋に連れて行った。200キロのドアに始まり、20キロのスリッパや湯呑み、60キロの椅子などに驚いていると、ゼブロさんは特訓をしていくことを提案した。
「さんが開けられるのでこのまま行ってもいいですが、ゴン君はそれでは納得できないでしょう? 彼女にできるのです、君たちにも決して不可能じゃない」
「試されるのは不本意でも」
「ほかに方法がないのなら」
「やるしかねーか。よっし分かった! 世話になるぜ!」
3人ともやる気十分だ。私も2か3の扉まで開けられるように一緒に特訓に参加しよう。観光ビザの訊く1ヶ月が勝負だ。
10日後にはレオリオが単独で開けられるようになり、ゴンの骨折が治った。いくらきれいに折られてたからと言って早すぎる気もしたが。主人公クオリティなのだろう。20日過ぎる頃には全員が1の扉をクリアした。私も霊圧を上げて3の扉、素でも1の扉が開くようになった。そこそこ驚きである。
ゼブロさんともう一人の使用人、シークアントさんに礼を言って、道なりに森を抜けて山を目指す。すると、森には似つかわしくないきちっとした礼装のエビフライのように髪をまとめている女の子がいた。服からして執事なのだろう。
「出ていきなさい。あなた達がいる場所は私有地よ。断りなく立ち入ることはまかり通らないの」
その後も少し押し問答をしたが、結局一線を越えるようなら実力をもって排除されるらしい。説明の途中でどこかカチンと来ていたゴンが私たち抑え、一人で前に出る。先程言われた線をゆっくりと越える、瞬間、執事の子に杖で殴り飛ばされて帰ってくるのを受け止めた。
「ゴン!!」
「…レオリオ、クラピカ!」
二人が武器を構えるのをゴンが止めた。鼻から血を流しながらも引く気は全くないようだ。
「ありがと。でも、手を出しちゃだめだよ。オレに任せて。…オレ達君と争う気は全然ないんだ。キルアに会いたいだけだから」
「…」
「理由が何であれ関係ないの。私は雇い主の命令に従うだけよ」
3人で無言になる中、執事の子は言って杖を構え直した。