幼少期01

気が付いたら幼児だった、というパターンにもそろそろ慣れてきた気がする。三歳くらいの身でうっすら残る記憶を探ってみると父親は忍者らしい。え、忍者? 家の中をうろうろしたところ、今回はやはり現代日本ではないところのようだ。文明の利器はあるので(電気とか)戦国時代のような所ではないようだが。窓の外の光景は微妙だ。見たことあるようなないような形の木造建築。

ちゃん、公園行こっか」
「うん!」

この度の母親に対して元気に返事をする。ほほえましそうに差し出してくる手を握り、外に出た。あたりをきょろきょろ見回す。純和風とは違うどこか中華っぽい雰囲気もある建物。決定的なのは額に模様の書かれた金属をつけてベストを着た忍者と思しき人とすれ違ったことだ。あのマークは見覚えがある。ここはNARUTOの世界だ。1個前の世界でも漫画は読み漁っていたのもありすぐ分かる。元々の世界と同じ漫画だけでなく色々あったから、つい祓い屋業の合間にまたオタクと化していたのだ。そのおかげで内容は良く覚えてる。

「どうしよっか…」
「? どうしたの、遊ばないの?」
「ううん、なんでもない! 行ってくるね」

いつの間にか公園に着いたので、母親の手を放して子供に混ざる。伊達に前回幼稚園に通っていないのだ。幼児に混ざるなんて簡単だ。とりあえず砂場でお城という名前の山を作っている子と一緒にそこに穴を掘る。傍ら、考えるのはこの世界のことだ。

どこなのかは分かった。なら、今はいつなのだろう? BLEACHの時は夜姉が、HUNTERの時はゴンがすぐ傍にいてどこにいるか、いつなのか分かった。前回は心当たりがなかったが、SPRの濃い面子と事件遭遇率からしてあれも何かの物語だったのだろう。今回は場所は分っていることだし、誰か特徴的な人物に会うのを待つか。

それからは砂場遊びに精を出し、日が傾いてきたので帰ることになった。呼ばれたので一緒に遊んでいた色素の薄い金髪の子と親に駆け寄る。丁度親同士も話していたらしい。

「ママー!」
「あら、一緒に遊んでたのね。君のお名前は?」
、3才だよ」
「いのも! いのも3さい」
「へえ…」

また遊ぼうね、と言って別れた。奇しくも今がいつか分かったのである。母親が山中さん、と呼んでいたし、あの子はナルトと同期の山中いのだろう。同い年ということは今は九尾が襲ってきた後で、丁度原作と関わる時期となる。まあ原作といえども、あまり気にせず思うがままに過ごすだけだが。その日は父親が任務に出ていて、帰ってこないようで会えずじまいだった。

02

専業主婦の母親と幼児ライフを送る傍ら色々こっそりと調べ、試す。名前は。ここは木の葉の里で母親一般人の父親忍者の現在3歳の一人っ子。斬魄刀、鬼道、念。どれも問題なく使えたが、オーラを扱うときに違和感があった。これからはオーラではなくチャクラと呼ぶべきか。この世界では経絡系と呼ばれる器官が体にあるせいだろう。慣らしていくと問題なくなり、以前のように流が行えるようになった。技の威力確認は一人で出歩けるようになってからだが、今のうちにできることは確認し終わった頃、父親が長期任務から帰ってきた。

「ただいまー! パパですよ!!」

抱き上げられ、撫でまわされる。その日からしばらくは休暇のようで、娘をかまえて嬉しそうな父親に子供らしく質問攻めにしてみる。

「お父さん忍者なんでしょ?」
「そうだぞー。強いんだぞ」
「強いと偉いの?」
「偉い偉い。パパは上忍だからなー」

等々。どうもパパと呼ばれたいらしい父親を躱しながら誘導して、忍術を見せてもらうことに成功した。まあ、変化の術なのだが。目の前でぼん、と煙を出して父親が母親になる。また煙とともに父親に戻る姿に熱心に拍手を送る。本心だ。

「お父さん凄い!」
「ははっ。も大きくなればできるようになるさ」
「どうやるの?」
「そうだな。指をこうやって…」

子供の遊びと戯れに教えてくれた。成功するはずがないと思っているのだろう。まあ普通はそうなのだろうが、あいにくと普通ではない。もうチャクラの事は分っているのだ。霊力やオーラとほぼ同じ感覚で練れるし、これくらいは別に隠そうとも思っていない。

「ふん!」
!?」

目の前にいる父親と同じ姿になる。

「どお?」
「…まさか」

少々どころではなく唖然としている父親に得意気に笑ってから変化を解く。それでもまだ呆然としているのでちょっと申し訳なくなった。

「ダメだった…?」
「あぁ、いや。凄いぞ! 天才だ!」

我を取り戻した父親に高い高いされる。かなり興奮しているようで、ちょっと投げ上げられるのが落とされそうで心臓に悪かった。

その晩は早々に寝たのだが、夜の間に夫婦で話し合ったのか次の日の朝食で修業をしないか、と問われた。

「修業?」
「そうだ。昨日みたいな事ができるようになれる」
「いいよ。でも遊びたいな…」
「そうか! 何も一日中やる訳じゃない。少しだけだ」

真剣な顔をする父親に了承すると破顔する。その日から任務の入っていない日の午前中は修業をして日々を過ごすこととなった。

03

それから始まった修業で基本的なことを教わっていった。3歳児相手にしてはいささか本格的な内容だった。誤魔化すのが難しい体術の実力に多少難しい顔をしていたが、小出しにしているのもあり概ね才能がある子供として納得してくれたようだ。午後は母親と公園に行って、いの達と遊んだり、あちこち探検と称して母親を連れて歩き回った。そして暫く経って任務で父親がいない夜中、母親の眠りが深いのをいいことに教わった分身を置いて能力確認に抜け出すようになった。

そんなある日。昼間は何やら調印式があるので騒がしかった夜中。いつものように抜け出して能力確認をしていると、不意に近くに怪しい気配が来たので隠れた。絶をするとこの世界では全く見つからないのは実証済みなので、気配を絶ってこんな夜中にこんな森の奥に来る自分以外の怪しい奴を見に行く。すると、気絶した女の子を担いだ黒ずくめの男がやってきた。いかにも悪い奴だ。遠くに追手の気配もするが、このままでは逃げられてしまうだろう。少し足止めをするのも吝かではない。念のため変化して(咄嗟に思い付かなかったのでの姿を取った)まずは相手の足を止める。

「破道の三十一、赤火砲!」

突然気配なく加えられた攻撃に相手が気を取られた。その隙に乗じて瞬歩で近付き、まずは女の子を取り返す。手が空になったのに気付いた相手が苦無を構えて睨みつけてくる。

「っ! 貴様…返せ!!」
「元々君のでもないだろうに。後ろの者が来るまでここにいてもらおう」
「戯言を…!」

女の子を抱いたままのこちらにチャクラを纏い突っ込んできた。軽く避けると取り戻している時間はないと踏んだか、そのまま逃げようとする。だが、そうはいかない。

「縛道の六十三、鎖条鎖縛」
「何っ!?」

太い鎖が現れ相手の動きを縛る。逃げようともがくが、無駄だ。それは腕力では絶対に解けない。どうにか鎖を解こうとしているのを眺めていると、背後の気配が追い付いてきた。

「ヒナタッ!!」

何人かの暗部の仮面をつけた人たちの先頭を走ってきた、目の白い日向家のおじさんが叫んだ。そうか、この子は日向ヒナタなのか。そういえば誘拐される過去があったような。

「怪我はないようですよ。どうぞ」
「あ、ああ…」

横抱きにしていたヒナタを渡す。暗部の人たちは鎖で繋がれた黒ずくめを油断なく囲んでいる。

「では鎖を外しますよ。まず気絶でもさせておいてください」

言って、一人が黒ずくめを殴ったのを確認してから鬼道を解く。黒ずくめはそのまま暗部に連れて行かれてしまった。面倒事は嫌なので私もこのまま消えることにする。

「では私はこれで…」
「待て! 君は一体…」

最後まで聞かず、瞬歩で上空に上る。霊子で足場を作って超高度を通れば見つかるまい。そのまま逃げた。しばらくは夜に抜け出すのを自重しよう。