悪霊がいっぱい01

ある日校長室に呼び出され、何事かと思ったら依頼だった。旧校舎で発生する怪現象の収拾をして、工事ができるようにしてほしいらしい。確かに変な噂がある。過去には実際に死人も出ているらしい。

一通り見て回ったが、特に害をなすような霊はいなかった。死亡した事例も調べたが、原因のはっきりした事故ばかりだ。その旨を報告して、他の原因を考えた方がいいと伝えようと準備を始めようとした放課後。仲良くしている子たちが話しかけてきた。

「ねえ、も一緒に怪談しない?」
「怪談?」

何かばれたのかと少々どきっとするが、学校では副業の話は一切していない。校長も秘密にしてくれているはずだ。

「うん! 昨日もやったんだけどさ、超かっこいい先輩が来て今日もやろうって事になってるの」
「人数いた方が盛り上がるし! もやろうよー、怪談」
「いや――」
「怪談ですって!?」

少しヒステリー気味に割り込まれた。同じクラスの黒田さんだ。もっとおとなしい子という印象だったのだが。

「あなた達毎日そんな事をしていたの…通りでずっと頭が痛いはずだわ」
「え?」

その後も霊感があると強い調子で言いつのる。彼女からは全く霊力の類を感じないが。

「…気のせいなんじゃないの?」
「絶対違うわ! 怪談をすると、低級霊が集まってくるの。そして強い霊を呼ぶわ。そうなったら大変なの! だから、怪談なんて面白がってしちゃダメなのよ」

言ってることはそう間違ってない気がするが、剣幕がすごい。何か怪談に思い入れでもあるのだろうか。と、教室の外で話を聞いていた人が入ってきた。

「キミ。霊感があるんだったら旧校舎について何か感じないか」
「誰?」
「渋谷先輩だぁ!」
「あなたね! この子達をそそのかして怪談なんてしようって言ったのは」

真っ黒な私服の人だ。先輩というからには年上なのだろうが、制服を着ていない。それに、全く同じ顔をした霊を憑けてる。双子だろうか。黒田さんが噛み付くが、聞き返されて居ない霊の話をする。彼女の目には戦争で死んだ人の霊が見えるらしい。以前病院が立っていたので、怪我をしているとか。しかし、渋谷先輩とやらにも事実を持って否定される。依頼を受けた時に調べたが、この学校は結構歴史があって戦前から建っているのだ。

「とにかく、私は見たの! 霊感のない人にはわからないわ」

語調も荒く告げる黒田さんに、周りは気圧され気味だ。と、2つの顔を見比べていた私と霊の目がばっちり合った。すごい勢いで楽しそうに手を振られる。

『うわぁ、ねえちょっと視えてるよね!?』
「…渋谷先輩、今日はやめにしませんか」
「あたしもなんか気が乗らないや」
『返事してほしいなー、なんて』
「そう。じゃあまたいつか。…ところで、このクラスにさんが居るって聞いたのだけれど」
「…私です」
『せめて合図だけでも』
「少し時間をくれないか」
『僕も欲しいな!』

色めき立つ二人と悔しそうな黒田さんを置いて廊下に出た。勿論うるさいのも憑いてきた。

02

うるさいのは目で黙らせて、話を聞くことにする。

「何か用ですか?」
「校長にさんが調査をしていると聞いてね。事前にやっている人の話を聞いておきたくて」
「旧校舎のですか。なぜあなたが?」
「僕も依頼されて調査に来たんだ。ゴーストハントをやっている、渋谷サイキックリサーチ所長の渋谷一也だ」

幽霊狩りの、心霊調査員。やはり先輩ではなかった。敬語はいらないかな? 校長は見た目ただの学生の私の調査だけじゃ満足できなかったのだろう。別の場所にも依頼をするとは。

「何の気配も感じなかったよ」
「では、霊の仕業ではないと?」
「確実に。あそこには何も居ないから」

前に別の依頼で、何も異常がないので調べなおすように言ったら違法建築だったことがある。今回も建物が相当古いし、その類ではないかと思っている。そのあと渋谷さんは納得したのかしてないのか明日も調査している、と言い置いて去っていった。周囲に誰もいないのを確認して空いている教室に入る。

「で、何か用?」
『さっきはごめんね。視える人を見つけたからつい興奮しちゃって…僕はジーン。ユージン・デイヴィス。よろしくね』
「私は谷山。よろしく…渋谷じゃないの?」
『それは日本でのナルの名前だよ。本名はオリヴァー・デイヴィス。そっちこそじゃないの?』
「それは仕事用の名前」

本人のいないところで盛大にネタバレされている。名前からして外国人なのだろう。確かに少しほりの深い顔をしていた。

「それで用は?」
『そう! それなんだけど、ナルに伝えてほしいことがあるんだ。でも、まだ完全には伝えられなくて…』
「はっきりしないね…伝えるだけならすぐだけど」
『本当!? 実はナルは死んじゃった僕を探しに日本までやってきたんだ。だから、僕の居場所を伝えたいんだけど、最後の方の記憶があいまいで…』

急き込むように話し出すのに詳しく話を聞くと、ジーンは日本のどこかで事故で死に、そのことが双子のホットライン(一種のテレパシー)を通じてナルに伝わったらしい。だが、遺体がまだ上がっておらず、探しに来たナルのそばにいつの間にかいたジーンは、どこで死んでしまったのか衝撃のせいか忘れてしまっていたようだ。

「簡単にはいかないわけだ」
『なるべく早く思い出すようにするから、調査が終わるまででもいいから付き合ってくれないかな』
「いいよ。でもこのことは早めにナル…渋谷さんに伝えた方が良いんじゃない?」
『でもどこか分かった訳じゃないし、できるだけ待ってくれると嬉しいな』
「分かった」
『あ! ごめんね、もう距離が…あんまりナルと離れてられないんだ。また明日ね!』

ジーンはそういって慌ただしく去っていった。行くつもりはなかったが、これは明日調査を見に行く必要があるだろう。依頼の報告も、ナルたちの状況を見てからでも遅くないだろう。

03

帰り道、部活が終わった友人二人と合流した。渋谷先輩と何話してたの!? と面食いの二人に問い詰められたので、調査に来たらしい事を説明していたらまた黒田さんが話しかけてきた。

「谷山さん、私を紹介してくれないかしら」
「紹介? ナルに?」

ナル呼びがジーンからうつった。ナルナル長時間連呼されたからだろう。呼び方に興奮する二人をよそに黒田さんが続ける。

「ほら…あたしにも霊能力あるじゃない、だから何か手伝えるかもしれないし」
「無理に関わろうとしない方がいいと思うけど」
「無理なんかじゃないわ! あたしだって素人じゃないのよ!!」
「…行こう、
「あ、うん」

何故かやたら絡んでくるが、二人に手を引かれその場を去る。曰く、中等部のころからこうらしい。霊感があると騒いでは周りの顰蹙を買っていたようだ。




次の日の土曜日、休みなのに朝から学校に向かった。旧校舎のそばに1台のバンが停めてある。そこにナル――渋谷さんとジーンともう一人、前髪の長い男の人がいた。

「おはよう」
『おはよう!』
「ああ。おはよう」
「…ナル、彼女は?」
「僕たちの前に調査していただ。こっちは助手のリン」
「はじめまして」
「ではあなたがあの祓い屋…」

愛想のない人だ。でもあのって何だろう。帰ったら神主さんに聞いてみるか。それにしても機械の量が多い。

「すごい機材だね。今は何をしてるの?」
「昨日のデータのチェック。特に異常はないようだ」
『ナルはすごいんだから!』

ジーンの自慢を聞き流していると、人が二人やってきた。

「へえ、いっぱしの装備じゃない。子供の玩具にしては高級すぎる感じね」
「あなた方は?」
「私は巫女の松崎綾子。あなたが頼りないからって校長に言われて除霊に来たの」
「巫女とは清純な乙女がなるものと思っていましたが」
「あら、そう見えない?」
「少なくとも乙女というには、お年を召されすぎと思えますが」
「…ずいぶんと生意気な坊やね」

一人は派手な服装と化粧の女性で、プライドも高そうな感じだ。顔が引きつっている。もう一人はナルの発言に笑いをこらえている明るい茶色の長髪の男性だ。

「そちらは? 松崎さんの助手という訳ではないようですが」
「俺は高野山の坊主、滝川法生って者だ」
「高野山ではいつ長髪が解禁に?」
「…破戒僧」
「今は山を下りてるんだよ! とにかく、子供の遊びは終わりだ」

また的確な嫌みを言うナルに、松崎さんが便乗する。滝川さんも校長に呼ばれたらしい。ナルも見た目で信用されていないみたいだ。何人も呼んで大げさな人だ。だが、一人で十分、とお互い牽制する二人に思う。

「でも、校長も見る目だけはあるんじゃないかな」
「分かってるじゃない」
「お譲ちゃんは?」
、祓い屋を名乗ってます」
「へえ、あの…」
「ほお…」
「…その根拠は?」
「だってここに居る皆、なにかしらの能力者じゃない。この業界、はずれも多いのに」

それぞれ、そこまで強くないが霊力の類を感じる。ナルの問いに言うと、沈黙が下りた。でも本当、あのって何だ。