人形の家01

旧校舎の一件から二ヶ月が経ち、6月。今我々SPRの面子は瀟洒な邸宅の前にいる。

あのあと何回かジーン捜索の小旅行に行ったり、『』に来た依頼に同行する形で来るナル達と調査はしたが、特に結果らしい結果は得られなかった。ジーンの事は手掛かりがほとんどないので仕方がないのだが、問題は祓い屋の方だ。依頼人の話を聞いてからは見敵必殺、とばかりにで魂送するのが私のスタイルなので(多少は幽霊と話はするが)、全然SPRの装備類が役に立たないのだ。酷い時はベースの設置中に祓い終わってしまうことがあった。

そこで今度はSPRに来た依頼である。ナルに今度は僕たちのペースでやる、とのお達しを頂いている。要するに自重しろってことですね分かります。今回はこの邸宅、森下家の旦那さんの妹が依頼人だ。三日前に事務所に来た時たまたま居合わせたのだが、霊圧の残り香がした。ナル達にもそう告げてある。

「ご足労をおかけして、申し訳ありません」

居間に案内されると、依頼人である少しおっとりした感じの典子さんに、お義姉さんの香奈さんと姪っ子の礼美ちゃんを紹介された。きりっとした美人とお人形のようなふわふわの髪をした可愛い女の子だ。お兄さん――香奈さんの旦那さんが海外出張中で女三人だけなので不安だった様子。依頼に来た時も、落ち着かなさ気に家が変なんです、と語ってくれた。改めてもう一度話を聞く。

「…急に家具がガタガタ揺れたり、誰もいない部屋で壁を叩く音がしたり、開けたはずのないドアが勝手に開いていたり…とにかく、変なことが多くて…」
「責任者はどなた?」
「僕が、所長の渋谷一也です」

香奈さんの怪訝とした問いにナルが名乗ると、ますます困惑した雰囲気になった。まあ、見た目完全に学生なのが二人(リンさんは車を止めに行っている)ではその反応も仕方がないだろう。

「…まあいいわ。ほんとにその、幽霊とかの仕業なの?」
「それを調査するのが我々の仕事です」

それで挨拶は済んだのかと思えば、まだらしい。他の人が雇った霊能者がいるということで引き合わされたら、なんと。

「あ! あんた達」
「こりゃ奇遇だなー」

旧校舎の件で一緒になった巫女さん、松崎綾子とぼーさん、滝川法生だった。二人も除霊を依頼されて別々に来たのだが鉢合わせたそうだ。折角なので人手が多いにこしたことはない、ということでベースの設置を手伝って貰うことにした。

の嬢ちゃん…もうでいいか、も依頼でブッキングしたのか?」
「違うよ。今はSPRに協力員として雇われ中なんだ」
「あの所長に? アンタも物好きねー」
「その所長に言い寄ってた巫女さんほどじゃないと思うな」
「なによ! …あたしも綾子でいいわよ」

なんだかんだ言いながらも手伝ってくれる二人はいい人だと思う。

02

ベースの設置が終わり、ナルとリンさんが機器の確認をしている中、今回の原因の話になる。

「どうせ地霊かなんかの仕業よ」
「綾子は前回もそれで外れてたよな。は?」
「私は今回は霊の仕業で一択かな。うじゃうじゃいる」

今までの何回かの依頼で色々言い当ててきた私のその言葉にナルが興味を示した。

「どの位いるんだ?」
「子供ばっかり30人以上は。…近寄ってこないし、まだこの家全部見終わってないから確実には言えないけど」
「そうか」
「マジかよ…」
「嘘でしょ」

ナルは淡白な反応だが、ぼーさんと綾子は顔が引きつってる。それでも出ている反応はノック音などポルターガイスト関連なので、まずは今夜、犯人が人間じゃないか暗示実験をやるそうだ。それまで暇になったので(まだ本格的な機械の操作はできない)屋敷を色々見て回ることにする。

「ちょっと行ってくるね」
、くれぐれも」
「分かってるって」

念を押されなくとも、一日目は様子見に徹するようにと何回も行きの車の中で言われたのだ。が心配か? なんてナルに絡んでるぼーさん達を置いてベースを出た。




一通り見て回ったが、本当に子供の霊だらけだ。よくもこれだけ集まったと言いたい。遠目にこちらを見てくるだけでまだ接触はしてこないないが、40人はいるんじゃないだろうか。一つだけ気になったのは最初に案内された居間だ。床下に澱んだ気配がある。死体でも埋まってるんじゃないか。

ちゃん」
「はい」
「丁度良かったわ。礼美のおやつの時間なの。いっしょにどう?」
「ぜひ!」

お菓子の乗ったお盆を手にした典子さんの誘いに一も二もなく頷く。甘いものや可愛い子は大好きだ。二階の礼美ちゃんの部屋に向かう。

「礼美ちゃんって可愛いですよね。お父さん似ですか?」
「いいえ。母親似よ」
「でも香奈さんとはあまり…」
「ああ。義姉は兄の再婚相手なの。礼美は前の奥さんとの子だから」
「ごめんなさい、不躾で」
「気にしないで。…礼美、おやつよ。ちゃんも一緒」

部屋に入ると礼美ちゃんは床に絵本を広げて読んでいた。こちらに気付いて人形を手にやってくる。

「こんにちはー」
「こんにちは。お邪魔してるね? …キミのお名前は?」
「ミニー!」

笑顔が引きつらなかった自分を褒めてほしい。礼美ちゃんが手を差し出させている人形に思いっきり憑いてる。

「あら、礼美、ご本を読んでいたの?」
「…っ」

典子さんが声をかけた瞬間、礼美ちゃんの顔色が悪くなった。お菓子もいらない…、と弱々しい返事だ。何かあったのだろうか。人形のせいでないと良いのだが。その場は辞して、ナル達のところに戻った。

03

そして夜。ナルによる暗示実験が行われた。ゆっくりと明滅するランプと穏やかなナルの声に、森下家の三人はとろんとした表情だ。

「今夜、花瓶が動きます…ガラスの小さな花瓶です…」

暗示がかけ終わり、ぱっと電気をつけると皆の目がナルの持つ花瓶に集中した。成功だろう。だが、この気配の量からして確実に犯人は人間じゃない。結果を待って2時間後、香奈さんがベースに駆け込んできた。

「ちょっと来て!」

呼ばれて礼美ちゃんの部屋に行くと家具が全て斜めに配置されている。先程からざわついていたのはこれか。

「どういうこと? こういうことが収まるように来てくれたんじゃないの!?」
「その子がやったんじゃないでしょうね」

綾子が礼美ちゃんを疑うが、人間の仕業ではない。重たいベッドや本棚の下のカーペットまで何の痕跡もなく動かされてる。ぼーさんやナルも同意見だ。疑われてしょげている礼美ちゃんをあやしていると、悲鳴がした。

「典子さん!」

駆けつけると、今度は居間の家具という家具が逆さまになっている。ご丁寧に額縁までだ。

「ポルターガイスト決定だな」
「犯人は霊よ。明日にでもあたしが祓ってやるわ。まあ、見てなさいって」

ぼーさんの言葉に自信あり気に綾子は言うと、おやすみーと去って行った。片付けから逃げたな。典子さんたちがいなくなってもじっと動かないナルに声をかける。

「どうしたの? 何か気になることでもあった?」
「反応が速いと思わないか。心霊現象というのは部外者を嫌う。無関係な人間が入ってくると一時的に鳴りをひそめるはずなんだ」
「そうだな。反応が強くなるということは…反発」
「ぼーさんもそう思うか」
「ああ。この家、俺たちが来たのに感付いて腹を立ててるな。しかもいきなりこんな大技見せてくれるってことは半端なポルターガイストじゃねえ」
「手こずるかもしれないな…」

二人して深刻な顔をする。確かに半端じゃない人数がいるけど、それよりも私は気になることがあるんだが。

「ねえ、この部屋の下…死体でも埋まってるんじゃないかな」
「または大胆なことを言い出すな…」
「何を根拠に?」
「一杯いる子供たちとは別に、いやな気配があの辺からする」

床の中央あたりを指してやれば、今度は二人して嫌な顔をする。

「とにかく、この部屋と礼美ちゃんの部屋は立ち入り禁止にしよう。機材を設置する」
「分かった。子供たちはどうする? 私が祓っちゃおうか」

ナルは少し迷うそぶりを見せたが、結論は変わらないようだ。

「いや。今日はもう遅い…様子見だけにしておこう。実験の結果もまだ出ていない」

その日はこれで終わった。