1次試験01

大きな町の、立派な建物――の隣にある定食屋についた。戸惑う私たちをよそにナビゲーターであるキリコがさっさと注文をする。

「おやじ、ステーキ定食」
「…焼き方は?」
「弱火で、じっくり」
「へいよ、奥に入んな」

ここに辿り着く確率は1万人に1人らしい。もし来年も受けるならまた案内してやるよ、と言い残してキリコは去って行った。奥の部屋に入ると、部屋全体がエレベーターになっていたようで、ゆっくりと下り始めた。

また、ルーキーが受かる確率は3年に1人なのだそうだ。でも、この場に居る皆は受かってなかったっけ? 思い出そうとしているうちに話題はどんなハンターを目指すべきか、になっていた。レオリオ曰く儲かるハンターとクラピカ曰く気高いハンター。だが、2人の話は色々と原作のことを忘れていて疎い私には参考になる。

「ゴンはどっちのハンターを目指すんだ!?」
「どっちって言われても…そうだ、は?」
「え」

こっちに振らないで欲しい。言い争っていたはずの2人が仲良く同時にこちらを見た。その時、部屋が止まったのでこれ幸いと逃げる。

「ほら、着いたみたいだよ。行こう、ゴン」
「あ、うん」

豆にしか見えない頭の形の人に番号札をもらった。406と書かれているそれを胸に付ける。

「すごい人数だね」
「しかも強面の男の人ばっかり」

気押されている二人をよそにのんきに話していると、小太りのおじさんが話しかけてきた。トンパというらしい。色々と説明してくれる。忍者のハンゾーとか、危ないヒソカとか。こんな人たちもいたな、と思いながら怪しいジュースを受け取る。だが、先に口をつけていたゴンが吐き出したので飲まないでおいた。
しかし、ヒソカか。ゴンのことが大好きな快楽殺人者の変態である覚えがある。これだけ覚えていれば十分なんだろうか。まあ、あまりお知り合いになりたくない人種だ。関わらずにいられるだろうか。

そうこうしてるうちに、ベルが鳴りだした。受付終了の時間に結構ギリギリだったようだ。

「ではこれより、ハンター試験を開始いたします」

こちらへ、と歩きつつ彼は説明を始めた。死んでも自己責任なのが嫌なら着いて来るなとのことだ。だが、ここまで来ておいて怖気づいた辞退者は出ないだろう。周りは皆付いて行く者ばかりだ。しかも、なんだか早足になってきている。

「申し遅れましたが私、1次試験担当のサトツと申します」

2次試験会場に案内してくれるらしいが、道中が既に1次試験になると言っている。ひたすら走ることになりそうだ。

02

ひたすら走る。クラピカに言わせれば良い持久力と精神力を試すためのテストらしいが、退屈でもある。しばらくすると皆で固まって走っている横を銀髪の少年がスケボーで通った。レオリオが突っかかる。

「オイこら、ガキ! 汚ねーぞ、そりゃ反則じゃねぇかよ」
「違うよ、試験官はついて来いって言っただけだもんね」

ゴンの反論にも突っかかるレオリオにクラピカが突っ込みを入れたりとしていると自己紹介が始まった。ゴンと同い年のようで、キルアが年を聞いたあと綺麗な身のこなしでスケボーを下りた。レオリオの年齢には素で驚いたが。クラピカが離れ気味だ。

「アンタは?」
「私は、13かな(見た目は)」
「ふぅん」

中々そっけないが、最初はそんなものだろう。ゴンがフレンドリーすぎるのだ。またひたすら走っていると、レオリオが脱落しかけたが、根性で持ち直す。荷物を拾ったゴンの釣竿捌きにキルアも興味津々だ。しかし、やはりペースは落ち気味で、レオリオとクラピカと少しずつ離れていった。

自分たちのペースで走っていると、一番前まで来てしまった。試験に退屈そうなキルアとただ走っているだけなのに楽しそうなゴンが見ていて対照的だ。志望動機の話になる。何度聞いてもゴンの会ったことのない父親への思いは強いと思う。

はどうなのさ」
「便利そうだからと、他にやる事もないからかな」
「はぁ? 変な奴」
「あ、見て! 出口だよ」

明るさに一瞬目がくらんだ後、目の前には霧のかかっている自然があった。

「ヌメーレ湿原、通称『詐欺師の塒』。二次試験会場へはここを通って行かねばなりません」

サトツが説明してくれるが、また色々と危険な生き物がいるらしい。ここを走って通り抜けるのは確かに面倒くさそうだ。

「騙されると死にますよ」
「ウソだ!!そいつはウソをついている!!」

出てきた、サトツに似た猿を持った男の発言に受験者の間にざわめきが走る。皆判断しかねている感じだ。さらに言いつのる男に疑いが深まっていく。が、飛ばされた数枚のトランプによってその場が制された。

「くっくっ。なるほど、なるほど◆」

手元のトランプをいじりながらヒソカが嗤った。突然の凶行の理由を丁寧にも説明し、サトツに注意されている。それにしても気味の悪い男だ。近付かないようにしたい。ヒソカに仕留められた人面猿が集まってきた禿鷹のような鳥に食べられ始める。食うか食われるか。そのルールはこの試験において人間にも適用されるのだろう。

「それでは参りましょうか、二次試験会場へ」

03

舞台を変えて持久走が続く。今度は足元が悪いので先ほどまでよりずっと走りにくい。

「ゴン、、もっと前に行こう」
「うん。試験官を見失ったら大変だもんね」
「そんなことより、ヒソカから離れた方がいい」
「え?」
「…確かに」
「お、気付いたんだ?」
「まあ、あれだけ気持ち悪い気配出してればね」
「なんのこと?」

分かってなさそうなゴンにキルアが説明する。でも、キルアとヒソカが同類というのは言い過ぎだと思う。あんなのと一緒にされたいんだろうか。

「クラピカー、レオリオー! キルアたちが前に来た方がいいってさー!」
「どアホ、行けるならとっくに行ってるわい!」
「ゴン…」

周りからの視線が痛いから。キルアも微妙な顔をしている。その後も時折悲鳴が聞こえてくる後ろを気にしながら走っていく。と、聞き覚えのある声の悲鳴が聞こえた。ゴンが背後に走り出す。

「レオリオッ」
「ちょっと待ってよ!」
「ゴン、!」

放っておいても合格するのかもしれないし、ヒソカのもとに向かうのは嫌だ。かなり嫌だが、キルアの声を後に追いかける。もう見て見ぬふりはできないし、したくない。何事かとみてくる他の受験者たちの間をぬって逆走する。遠くに見えた光景に、ゴンが釣竿を振りかぶった。いい音がした。

「…やるねぇ、坊や◆」
「っ」
「釣竿かい? 面白い武器だね…ちょっと見せてくれるかな◇」

近付いてくるヒソカに、硬直してしまったゴンをかばって前に出る。上がりにくいが霊圧を上げて構えると彼の歩みが止まった。興味深そうに目を細められる。

「ほぉ…◆」
「動くな、レオリオ!」
「てめぇの相手は俺だ…!」

殴りかかろうとするレオリオに制止の言葉をかけるが、間に合わなかった。慌てて間に入り、カウンターで殴ってくるヒソカの腕をそらす。手が痺れる。次撃のトランプを持った方の手を避け、レオリオを抱えてゴンのところまで下がると、ヒソカの後方にクラピカが見えた。少しの間睨み合いになるが、携帯の音がしてヒソカが構えを解いた。何事か話した後、楽しそうに宣言する。

「君たちは合格だ◆」
「え?」
「またね◇」

踵を返したヒソカに、ゴンが座り込み、クラピカが駆けてくる。

「ゴン! 大丈夫か!?」
「…うん」
「気が抜けちゃったんじゃない?」

手を貸して立たせてやる。すると息せき切って喋りだした。

「すごいよ! ヒソカに負けてなかった!」
「あぁ。確かにすごかった。目で追うのがやっとだった」
「そんな…ヒソカが本気じゃなかっただけだよ」

キラキラした目で見つめられて、そこまで手放しに称賛されると本気で照れる。だが、今は急がなくては。

「それより、早くヒソカを追いかけないと不合格になっちゃう」
「それはまずいな」
「うん。あっちだよ、行こう!」
「分かるのか?」
「まだ匂いが残ってるから」
「ゴンは鼻が利くもんね」
「そ、そうか。では急ごう」
「うん」
「…いい加減おろしてくれねぇか…」

そういえばレオリオを抱えたままだった。