出会い01

「…ミ」

暖かい。柔らかい光が顔に当たっている。ここはどこだろうか。私はどうなったのだろうか。葉擦れの音が聞こえてくる。背中にはかさかさと柔らかい感触。どこか森の中に横たわっているようだ。確かにあの現場は森に程近かったが。

「ねえ、キミ」
「えっ」

声がして、慌てて目を開けて身を起こした。ら、目の前にはこちらを心配そうに伺う子供がいた。つんつんと威勢の良い黒い髪をした、見た目12,3歳くらいの男の子だ。くりっとした目でじっと見つめられる。

「大丈夫? 何かあったの? どうしてこんなところで倒れてたの?」
「たぶん大丈夫…何が、というかここはどこ?私は…」
「クジラ島の山の中だよ。本当に大丈夫?」
「うん…」

矢継ぎ早に聞かれたことに答えようとするも、疑問の方が先に立った。クジラ島…島だなんて、少なくとも尸魂界ではなさそうだ。現世にしてもおかしな地名だ。しかし、何か聞き覚えがあるような。

「そうだ、名前は? オレはゴン! ゴン・フリークスだよ」
「!」

つながった。聞き覚えがあると思ったらまた漫画だ。1回目死んだら尸魂界に生まれ変わっていて2回目はトリップですか…というか、百年経っても忘れてない自分すごい。あ、そう考えたら落ち着いてきたかも。って、今はそんな場合ではなくて。

「私は四楓院…いや、だよ。よろしくね」
「よろしく!」
「ところで、このあたりに刀…少し反った剣が落ちてなかった?」
「いや…見てないや。の落とし物?」
「無いなら仕方ないんだけど。探し疲れちゃってたってところかな。…どうしよう…」
「どうかしたの?」

斬魄刀…は手元にないし、死覇装は着ているものの、それだけだ。まあ何か持っていたとしても現状役に立たなさそうだが。もう日が暮れかけているし、とにかく森を下りた方がいいだろう。クジラ島に宿泊施設があるかは謎だし、無一文なので泊まりようがないのだが。本当にどうしようか。

「泊るところないなぁ、なんて…」
「そうなの? じゃあうちに来てよ! オレ、年の近い女の子とこんなに話すの初めてだからさ」

そう、私の見た目年齢は12、3歳くらいなのだ。死神的にはまだまだ成長期である。
そして、今すごい勢いで困っているのでその親切はとてもありがたいのだが…

「そんな、悪いよ。お家の人とか…」
「ミトさんなら大丈夫だよ! それに、山の中に女の子を置いてきたなんて言ったらオレが怒られちゃうよ」
「いいのかな…会ったばかりなのに」
いい人そうだし大丈夫だって! あんなところで寝てたのにみんな見てるだけだったし、小さい子もそばで遊んでたし」
「みんな?」
「コン太とか…あ、キツネグマなんだけどね、オレの友達!」
「…へぇ」

結構危なかったのだろうか。
とにかく、今晩はゴンの家にお世話になれそうだ。色々考えるのは後にしたい感じだ。今日はもう疲れた。

02

そのあと、突然訪れた怪しい格好(死覇装。真っ黒)の私をミトさん達は明るく迎えてくれて、夕食をごちそうになった。この世界には、だが家族がいないことを聞き出されてしまった私は、『保護者もなく旅をして無一文で森の中で寝ていた13歳の不憫な女の子』ということになった。何か勘違いさせてすいません…でも嘘は一切吐いていない。確かに客観的にはそうなりそうだ。最終的には好きなだけ居て良いよ、と言われてしまった。有り難すぎる。お古の洋服までいただいてしまった。




そして皆が寝付いた夜。自分の内面に意識を向けてみる。斬魄刀との対話、というやつである。

――
『なんだ?』

返事があることにまずは一安心。自分はいつも一人ではない。が内にいる。彼は藍色の髪をした青年で、とても頼りになる。

――よかった、無事だね。ところで、刀が無くなっちゃったんだけど…
『なくなってはいまい。ただ、出てゆけないだけだ』
――出てこれない?
『何かに蓋をされている感じだ。だが、常に供にある』
――蓋…何だろう、でもハンターだし…

念、ではないだろうか。あれって霊圧に似ている気がするし、使えないと刀すら出せないのかもしれない。鬼道などが使えるかどうか試してみる必要がありそうだ。

『思い当たる節があるならばそれで良い。より危急な事柄がある』
――何?
『新しき住人の事だ。』
――はい?

何それ。と思ったのが伝わったのだろう、言い直された。

『白き者だ。』

冷水を浴びせられた気がした。そうだ。その問題が残ってた…!いきなり違う世界になんか居るものだから忘れていた。新しい住人が居るということは、死ななかった私は虚化して、平子たち仮面の軍勢と同じことになったのか。それってかなりまずいのでは。

『早急にこれを倒せ。
――は私にできると思う?
『当然だ。誰の主だと思っている?』

自信に裏打ちされている、誰よりも私を思う声に落ち着かされた。そうだね、と返事を返す。善は急げというし、今日はもうひと頑張りだ。




「おはようございます」
「おはよう、ちゃん」

あのあと無事勝利してから寝たので、若干眠気を残しつつ挨拶。ミトさんの笑顔がまぶしいです。今日は昨日落とし物を探していた事になっているので、その探索にゴンと森へ再度出向く予定だ。色々確認したいことがあるので丁度良い。でも、これではお世話になりっぱなしだ。

「あの、本当にいいんですか?お手伝いしなくて」
「いいのよ、子供は元気に走り回らなきゃ。それに、何か無くしたんでしょう?ゴンなら鼻が利くから、一緒に探せば見つかると思うの」
「でも…」

言うと、ミトさんは柔らかく微笑んだ。

「本当を言うとね、ゴンと遊んでほしいのよ。小さい島でしょう?あの子、同い年くらいの子が居なくて、いつも森で動物とばかり。悪い訳ではないんだけど…だからちゃんを連れてきたときは本当に驚いたのよ」
「突然すいません…」
「だから遠慮しないでって!ゴンと友達になってあげてね」
「…はい」

笑い合っていると、どたどたと足音がした。思わず顔を見合わせる。

「あ!ミトさん、、おはよう!何か楽しそうだね?」
「「内緒」」

…あ。そういえば初めての友達ってキルアじゃなかったっけか。

03

朝ご飯をいただいて、ゴンと二人森の中を歩く。

「それでね、ヌシを釣り上げたらハンター試験を受けてもいいって約束したんだ!」
「へぇ。ハンター試験か…」
は興味ない? ハンター」
「ちょっとなってみたいかも」
「ホント!?」

突然ここに来たから、とくに当てはないし、やらなきゃいけない事もない。戸籍的なもの…市民コード?もないし、ないない尽くしだ。ハンター証は持ってると便利かもしれない。ゴンがヌシ釣りに精を出しているってことはちょうど原作の時期なのだろう。試験内容なんてあまり覚えてないとはいえ、ゴンと一緒なら受かりやすいのではないだろうか。

「じゃ、一緒に受けに行こうよ」
「…そうしようかな」
「うん!きっと楽しいよ」
「きっとね。なら、一通り山を見てみたら、今日もヌシに挑戦に行く?」
「行く!まずは落とし物を見つけないとね」

ゴンには刀を落とした、と思われているようだが斬魄刀はない。だが、死霸装の帯が見当たらないのは事実だ。たぶん昨日倒れていた辺りで見つかるだろう。




そのあと、帯が見つかったので一度釣り具を取りに戻るゴンと別れた。周りに人が居ない今のうちに確認したいことがある。まずは軽く踏み込んでみる。――成功だ。瞬歩はできる。歩法は問題ないようだ。問題は鬼道だ。

「赤火砲!」

手元に光の球ができる。赤火砲は威力を弱めると照明にも使える中級鬼道だ。成功したのはいいが、想定したものよりかなり弱い。

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ――破道の三十一、赤火砲」

まだ少し弱い。どうやら詠唱破棄だとかなり威力が落ち、きちんと詠唱しても向こうにいた時のようにはいかないようだ。まあ、そもそも大っぴらに使うべきではないだろう。本当に危ない時に躊躇うつもりはないが。

今後の予定としては、港があるようだしそこで路銀稼ぎでもしながらゴンがヌシを釣り上げるのを待って一緒に行動しよう。そうすれば念も習得できるのでにも早めに会えるだろう。

原作はキルアの妹のごたごたがあったこと位までなら知っている。一緒に居ればゴンさんにならずに済ませられるだろうか。(あれは印象に残ってる)逃げに徹するなら瞬歩がある私の方がただの念能力者よりは分があるのではないだろうか。まあ、またその時が来たら考えることにしよう。尸魂界で最後に見たあの光景。別に顔見知りではなかったが、助けなくてはいけない、と思わされた。今度目の前で何かあったら、体が先に動くだろう。