最終試験01

試験期間が終わったので、スタート地点に戻る。また飛行船に乗ると、ゴンの様子が少しおかしかった。気にはなるものの、言いたくなさそうなので無理やり聞き出すわけにもいかない。少し離れている間に元の様子に戻ったので、誰かに話してすっきりしたのだろう。クラピカあたりだろうか。

放送が入り、順に面談に呼ばれる。私は406番なので最後だ。部屋に入るとそこは純和風だった。まだそんなに経っていないのに、懐かしくて少し呆けているとネテロ会長に声をかけられた。

「ちゃんと試験は受けてくれたようじゃの」
「…まあ。そういうお話でしたし。楽しかったですよ」
「うむ。では、このまま最終試験も受けてもらおうかの。そのために少し聞きたいことがあるのじゃ」
「なんですか?」
「まず、なぜハンターになりたいの思ったのかな?」
「便利そうだから。と、他にすることもなかったから」

キルアに聞かれたときと同じ答えを返せば、面白そうに笑われた。

「では、残った中で一番注目しているのは?」
「…ゴン、かな。405番です」
「ほう。では最後の質問じゃ。一番戦いたくないのは?」
「一番は44番です。でも、できれば99,403,404,405番とは戦いたくないですね」
「ふむ、分かった。では下がって良い」

その後、3日間の休息が与えられた。そして試験当日、広間に集められる。受験生とこれまでの試験官とで向かい合って並び、最終試験の内容が発表された。

「最終試験は1対1のトーナメント形式で行う。その組み合わせは…」

ネテロ会長は言いながら、正面にあるボードから布を取る。

「こうじゃ」

ずいぶん偏っているが、左側の山が末端である戦う回数が多い順に294ハンゾーと405ゴン、53ポックル、99キルア、301針人間(注:ギタラクル)。右の山が404クラピカと44ヒソカ、191ボドロ、406私、403レオリオだ。合格の条件だが、たった一勝で良いらしい。通常とは反対に敗者が上っていく逆トーナメント方式をとり、最後に残った者だけが不合格になる。私が戦えるのは3回。初戦はクラピカとヒソカとボドロの中の負けた人。その次がレオリオで、最後が反対の山の敗者とだ。

「もうお分かりかな?」
「要するに不合格はたった1人ってことか」
「さよう。しかも誰にでも二回以上の勝つチャンスが与えられている。何か質問は?」
「組み合わせが公平ではない理由は?」

ハンゾーが呟き、初老なのにポニーテールの厳格そうな人、ボドロが挙手する。当然の疑問に、ネテロ会長が答えていく。今までの試験の成績が良いもの順、という言葉にキルアが反応する。不満もあらわに食い下がると、審査基準だけ教えてくれた。身体能力値、精神能力値はもちろん、印象値が重要らしい。生の声を吟味したらしいが、会長が自分の面白さを優先させたような気もする。

「戦い方も単純明快。武器OK、反則なし、相手に「まいった」と言わせれば勝ち! ただし、相手を死にいたらしめてしまった者は即失格! その時点で残りの者が合格。試験は終了じゃ。よいな」

長かったルール説明が終わり、緊張感が高まる。

「それでは最終試験を開始する!!」

02

第1試合は、ハンゾー対ゴンだ。実力差もあり、試合開始早々にワンサイドゲームの体を成した。だが、ゴンはそこで終わらない。一方的にやられ続けても、「まいった」とは決して言い出そうとはしなかった。殴られ続ける友人を見ているだけ、というのは精神的にくるものがある。飛び出そうとするレオリオとクラピカを止める余裕はない。しかし、腕を折られ、足を切ると脅されたゴンの切り返しで空気が変わる。

「それは困る!! 脚を切られちゃうのはいやだ! でも降参するのもいやだ!! だからもっと別のやり方で戦おう!」
「な…っ!てめー自分の立場わかってんのか!」

弛緩した雰囲気になった。その後もハンゾーは脅しをかけるが、親父に会いに行くんだというゴンのまっすぐ過ぎる目に見つめられて、明らかにひるんだ。しばらく2人ともじっと動かなかったが、ハンゾーが目を伏せ、引いた。

「――まいった。オレの負けだ」

安堵のため息を吐き、強張っていた体の力を抜く。結果に納得いかないゴンがなにやら奇妙な文句を述べたが、ハンゾーに気絶させられて合格が決定した。治療のために別室に運ばれていく。審判が気を取り直し、次の試合になった。

クラピカ対ヒソカの第2試合は明らかにヒソカが有利そうだったが、軽い牽制のようなやり取りの後、ヒソカが降参してしまった。その際、クラピカに何事か囁き、彼の顔色を一変させていた。試合が終わり、戻ってきたクラピカは何か深く考え込んでいる。

第3試合はハンゾー対ポックル。ゴン相手と違って容赦しないハンゾーにたまらずポックルが負けを宣言した。

次の第4試合。ヒソカ対ボドロは、熟練の武闘家であろうボドロをいとも簡単にヒソカが甚振り、また何か囁いた降参させて終わった。

ポックルとキルアの第5試合は戦っても面白くなさそうという理由でキルアが戦線離脱。

ついに第6試合、私の出番なわけだが、相手はもうぼろぼろだ。どうしようかと思っていると、なんと相手のボドロが怪我をおして棄権してきた。

「このような子供と戦うなど考えられぬ…」

あの怪我で、合格できるかはもう怪しいというのに信念を曲げないのはすごいと思う。4次試験の時の武人さんといい、律儀な相手に縁でもあるのだろうか。結果、戦わずして合格してしまった。

さて、次の第7試合はキルア対針人間である確かキルアの兄だ。何か酷い人だった記憶がある。多分原作ではこの後キルアの家に行っていたはずなので、お宅訪問という穏やかなものでない限り家出したキルアは連れ戻されたのだろう。この人が連れ帰るのだろうか。無理やりなら止めるが、どうだったか思い出せない。でも、警戒しておいて損はないはずだ。

「第7試合、キルア対ギタラクル!――始め!!

03

開始の合図にキルアが構えるが、発された意外ときれいな声に固まった。

「久しぶりだね、キル」

ギタラクルが次々と針を抜いていくたび、気持ち悪い音と動きで顔の形が変わっていく。つい身を引いていると顔面針だらけだった気味の悪い男は、猫目のすっきりした青年になった。キルアが驚愕の声を上げる。

「――兄…貴!!」
「や」

周りも驚いているが、キルアが一番驚いているのだろう。冷や汗を流している。そんな周囲の状況を気に留めるでもなく、ギタラクル――偽名だろう――は淡々と話しだす。

「母さんとミルキを刺したんだって」
「まあね」
「母さん、泣いてたよ」

言葉の内容の割に無表情だ。泣くは泣くでも喜んで泣いたらしい。それとなく様子を見てくるよう頼まれ、資格を取るついでに見ていたようだ。キルアは別にハンターになりたかった訳ではないと返事を返すが、明らかに気圧されている。

「…そうか、安心したよ。心おきなく忠告できる。お前はハンターに向かないよ。お前の天職は殺し屋だから」

その言葉とともに威圧感が増した。霊圧の――念であろう高まりを感じる。キルアは完全にのまれてしまっているようだ。顔を1ミリも動かさず続ける。

「お前は熱をもたない闇人形だ。自身は何も欲しがらず、何も望まない。お前が唯一歓びを抱くのは、人の死に触れたとき。お前は親父とオレにそう育てられた。そんなお前が何を求めてハンターになると?」

あまりにも一方的な決めつけだが、キルアが反論する気配はない。でも、試験中キルアは楽しそうだった。技を教えてと望みもしたし、ゴンの合格を喜びもした。家出をしてまで求めるものだってある。なのに。

「確かに…ハンターにはなりたいと思ってる訳じゃない。――だけど、オレにだって欲しいものくらいある」
「ないね」
「ある! 今望んでることだってある!」
「ふーん。言ってごらん、何が望み?」

すぐに否定されてしまう。一応聞いてはいるが、聞き入れはしないだろう。答えられずにいるキルアにさらに追い打ちをかける。

「どうした?本当は望みなんてないんだろ?」
「違う!」

さっきより強く言ったキルアは目をさまよわせ、こちらを一瞬だけみると、恐る恐る告げた。

「――ゴンと、…と友達になりたい。人殺しなんてうんざりだ。普通に、2人と友達なって、普通に遊びたい」