04
「――ゴンと、…と友達になりたい。人殺しなんてうんざりだ。普通に、2人と友達なって、普通に遊びたい」
それはこれまで色々強要されるばかりだったであろうキルアの持った確かな望み。心からの声なのだろう。私達と友達になる…こんな場面だが、そう思ってくれて嬉しい。しかし、また淡々と否定される。
「無理だね、お前に友達なんて出来っこないよ。お前は人というものを殺せるか殺せないかでしか判断できない。そう教えこまれたからね。今のお前には2人が眩しすぎて、測り切れないでいるだけだ。友達になりたい訳じゃない」
「違う…」
キルアの返答が弱々しい。うつむいてしまってこちらを見ようとしない。さらに否定の言葉を述べるキルアの兄に、私より先にレオリオがキレた。審判に止められてその場で怒鳴る。
「キルア!! お前の兄貴か何からねーが、言わせてもらうぜ。そいつはバカ野郎でクソ野郎だ、聞く耳持つな! いつもの調子でさっさとぶっとばして合格しちまえ!!」
それでもキルアは動かない。しかし、次の言葉にはっとする。
「ゴン達と友達になりたいだと? 寝ぼけんな!! とっくにお前らダチ同士だろうがよ!」
縋るようにこちらを見るので、大きくうなずく。
「少なくとも、私はそう思ってるよ。ゴンも同じだと思うな」
「え?そうなの?」
無表情に驚かれた。レオリオが指を立てる。
「あたりめーだ、バーカ」
「そうか、まいったな。そっちはもう友達のつもりなのか。――よし、2人を殺そう」
瞬間、殺気が膨れ上がる。
「殺し屋に友達なんていらない。邪魔なだけだから」
言い終わらぬうちに針が飛んでくる。
「ッ!」
「大丈夫!」
クラピカ達が叫ぶ。しかしだんだん速さと本数が増してきた。皆に当たらぬよう避けていると、ようやく審判の制止が入る。
「ま、まだ試合は終わってません! 失格に――」
ピタリと針が飛んでこなくなる。
「まいったなあ…。仕事の関係上、オレは資格が必要なんだけどな。ここで彼らを殺しちゃったらオレが落ちて、自動的にキルが合格しちゃうね。うーん…」
様子をうかがっていると一人で悩みだした。キルアはこちらも見ずに震えている。
「そうだ! まず合格してから2人を殺そう」
思いついた、とばかりに平坦に言う。キルアの肩がはね、場の空気が凍りついた。
05
合格してから殺す、というキルアの兄はネテロ会長に念押しする。
「それなら仮にここの全員を殺しても、オレの合格が取り消されることはないよね」
「うむ、ルール上問題ない」
「聞いたかい、キル。オレと戦って勝たないと、ゴンとを助けられない友達のためにオレと戦えるかい?」
無表情にすごむ。キルアはもう答えるどころではない。
「――できないね。なぜなら、お前は友達なんかより、今この場でオレを倒せるか倒せないかの方が大事だから。そしてもう、お前の中で答えは出ている。『オレの力では兄貴を倒せない』」
言いながら、威圧感をまし、ゆっくりとキルアの方に歩く。これは念で威嚇しているのだろうか。そしてゆっくりと手を伸ばし始める。
「『勝ち目のない敵とは戦うな』オレが口をすっぱくして教えたよね?」
手が近付き、あとずさろうとするキルアを止める。
「動くな。少しでも動いたら戦い開始の合図とみなす。同じく、お前とオレの体が触れた瞬間から、戦い開始とする。止める方法は1つだけ。――分かるな?」
じわじわと手を近づけながら言う。キルアは顔が蒼白だ。
「だが…忘れるな。お前がオレと戦わなければ、大事なゴンとが死ぬことになるよ」
「やっちまえ、キルア! どっちにしろお前もゴン達も殺させはしねえ!! そいつは何があってもオレ達が止める!! お前のやりたいようにしろ!!」
言いつのられるのに、レオリオが叫ぶが、根拠が乏しい。私も何か言おうにもキルアの兄に勝てるわけではないので、キルアに届く言葉を持ち合わせていない。がいれば、善戦は出来るかもしれないのに。近付いていく手が触れそうなまでになった時。
「まいった…オレの、負けだよ」
絞り出すように、キルアが言った。その言葉に何の感慨も感じさせずすぐに言葉が続いた。
「あーよかった。これで戦闘解除だね。はっはっは、ウソだよ、キル。ゴン達を殺すなんてウソさ。お前をちょっと試してみたのだよ。でも、これではっきりした」
無表情のまま笑う。そしてそのままとどめを刺した。
「お前に友達をつくる資格はない。必要もない。今まで通り、親父やオレの言うことを聞いて、ただ仕事をこなしていれば、それでいい。ハンター試験も必要な時期がくれば、オレが指示する。今は必要ない」
「キルア!」
壁際にふらふら戻ってきたキルアに3人でそれぞれ声をかけるが、全く聞こえていないようだ。宙を茫洋と見つめたまま動かない。キルアの兄を止められなかったのが悔しい。ゴンがいれば何か違ったのだろうか。これは殴ってでも気付かせようか、と思い始めた頃、次の試合の開始が宣言された。
「第8試合、ボドロ対レオリオ!!」
06
レオリオがしぶしぶ中央に出る。私もクラピカもとりあえず試合を観戦することにした。ボドロが負傷をおして構えると、レオリオも戦闘態勢になった。
「始め!」
審判が叫ぶと同時に、横を影が通った。変形させた手で一直線にボドロに向かっている。瞬歩で回り込み、腕をつかむ。一瞬遅れて踏み込んだ足音が響いた。
驚いた、というにはあまりに悲しそうな顔でこちらを見て身動き一つできないキルアの手を、腕をつかんでいるのとは反対の手でそっと握る。
「…もう、人殺しなんてうんざりなんでしょう」
「…っ!」
笑ってやると、一瞬泣きそうな顔をして、手を払い走って出て行ってしまった。追いかけようと思って、やめた。もしも本気でハンターになりたいなら戻ってくるだろう。でも今は試験より考えを整理する時間の方が必要かもしれない。
振り返ると、会場中の視線を集めていた。ギタラクルが怖い。ヒソカもなんだかねっとりした視線を向けてくる。
「あ、どうぞ続けて…」
壁際に戻ると、改めて審判が開始を告げた。ため息をつきながら見学する。
「…怪我はないか」
「何ともないよ」
クラピカが心配してくれる。試合はやはりダメージが大きいらしいボドロが劣勢だ。
「キルアは…どういう扱いになるのだろうか」
「さあ…このまま帰ってこなかったら失格になっちゃうんじゃないかな…」
殴り合いになったが、レオリオが勝利した。宣言がなされ、キルアの話になる。このまま次のボドロとの試合に現れなければ不戦敗になるらしい。3時間待ったが、結局キルアは戻って来ず、今年の不合格者1人が決まった。
休憩に時間をおいて、ハンター証の講習会が開かれた。早速とばかりに異議申し立てをするクラピカとレオリオに、不合格でもキルアはそれよりも重要なことがあって、それほど気にしないだろうと思い黙ってる私は薄情なのだろうか。キルアの兄を止められなかったこともあり、思考が鬱に入っていると大きな音を立てて扉が開かれた。ゴンがずんずんと入ってきて、一人の前で止まった。
「キルアにあやまれ」
「あやまる……?何を?」
ゴンの静かだが怒りに満ちた声で言うが、自称ギタラクルは不思議そうだ。
「そんなこともわからないの?」
「うん」
「お前に兄貴の資格ないよ」
「…? 兄弟に資格がいるのかな?」
堪えきれなかったのだろう、ゴンがギタラクルの腕を取って身体ごと振り回した。
「友達になるのにだって資格なんていらない!!」
怒り心頭に断言する声が響いた。